アシストスーツ試した 重いものを楽々、腰の負担軽く
重いものを上げ下ろしする際に腰への負担を軽減するアシストスーツが注目されている。農業や介護など中腰での作業が多い現場で普及が進む。スーツを着て作業し、効果を検証した。
7月初旬、よしだ農場(埼玉県所沢市)を訪れたときはニンジンの収穫期。色鮮やかなニンジンでいっぱいになったパレットを、台車に載せる作業の真っ最中だった。
20キログラム近いパレットを持ち上げる作業はかなりの重労働。農場で働く吉田明宏さん(32)は昨年からユーピーアール(東京・千代田)のアシストスーツを使っている。「一日中、作業すると腰に張りが出るが、アシストスーツを使えば疲れが軽く済む」と効果を認める。
このスーツは駆動源のない無動力タイプ。腰痛ベルトに背骨のような支柱が付いた形で、肩にひもを掛け腰と膝の下にベルトを巻き付ける。着るとアーチ状の支柱が背骨にフィットして自然に背筋が伸びる。腰痛ベルトを締めることで腹圧を上げ、椎間板にかかる負担を減らす。腰から膝にかけてゴムベルトが付いているので、前屈から起き上がる際、ゴムの伸縮力で動作を助ける。
まずはスーツを着ずに中腰でパレットを持ち上げた。全重量が腕や腰にかかり重さをずしりと感じた。ところがスーツを着たら腹圧で腰への負担が減ったうえ、ゴムの引っ張る力が働き作業が楽になった。猫背で前にかがむ姿勢が腰痛の一因とされ、支柱が背筋を伸ばして正しい姿勢に導いてくれる。ユーピーアールの長沢仁さんは「アシストスーツには腰に負荷をかけない姿勢を意識させる効果もある」と話す。
介護の現場でも少しずつ普及が進む。福祉施設でスタッフが高齢者や障害者の介護に利用する例が多かったが、最近は在宅介護でも使用する例が増えてきた。
千葉県柏市の武藤光行さん(67)もその一人。30年前、出産時の事故で意識障害になり入院していた妻の圭子さん(58)を昨年4月、自宅に引き取り介護している。そこで頼りにしたのがイノフィス(東京・新宿)のアシストスーツ。ベッドと車椅子の乗せ換えや、おむつ交換、着替えの際にも着用する。
武藤さんは「介護は中腰でする作業が多く、自分が腰を痛めたら在宅介護を諦めなければならない。スーツを着ると腰が楽で安心感もある。もう手放せない」と話す。
こちらも無動力タイプで、ポリエステル製のメッシュで包んだゴムチューブの空気圧を利用する。背面部に2本のチューブが入っており、手で空気を入れるとチューブが膨らみ前傾した際に後ろに引っ張る力が働く仕組みだ。
記者も体験した。体重60キログラムのダミー人形を使い、背中に両手を回してソファから抱え上げた。非着用時は重さにバランスを失いかけたが、スーツを着ると空気圧の力が手助けしてくれ、抱え上げられた。腰を痛めるかもしれないとの恐怖心は全くなかった。
モーターを使った動力タイプもある。
日本航空が昨年2月、成田や羽田空港などで手荷物をベルトコンベヤーに積み下ろす作業などに導入したのが、ATOUN(アトウン、奈良市)のアシストスーツだ。このスーツには左右に2つのモーターが入っており、センサーが腰の動きを検知。荷物を持ち上げるときは引き上げる力が働き、下ろす際はブレーキがかかる。
このスーツも体験した。モーターの力で重いものも楽に持ち上げることができ、下ろすときは背中の支柱部分が体を支え、腰への負担が軽くなった。地上業務の担当者は「少しでも社員を腰痛から守れれば」と期待する。
もっとも動力タイプは80万円以上するものが多く、物流など業務用が中心。一方、無動力タイプは3万円以下のものから十数万円と、個人でも手が届く範囲。農業や介護の分野では従事者や介護者の高齢化も進んでおり、スーツの利用者は増えそうだ。
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国内市場は急拡大
アシストスーツの市場規模は急拡大している。矢野経済研究所(東京・中野)の調査によると、2018年度の国内市場は前年度比13.6%増の14億3700万円。19年度は19億3900万円と同35%増え、さらに22年度には71億8000万円へと、倍々ゲームで拡大すると予測する。
調査対象には、歩行が困難になった人のリハビリなどに使われる歩行支援型スーツも含まれているが、こちらの市場は用途が限られ横ばい傾向。一方、今回試した作業支援型は低価格化と汎用性の進展で業務用から家庭用まで用途が広がっており、急成長が見込まれるという。
(高橋敬治)
[NIKKEIプラス1 2020年7月11日付]
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