長引く胃のもたれ、痛み 機能性ディスペプシアかも
胃の不快な症状が続くのに、内視鏡検査をしたら異常なし。その正体は、機能性ディスペプシアかもしれない。仮病を疑われたり、他の病気が心配になったり、悩みを抱えてしまう人も多い。気のせいやストレスと考えず、消化器内科の専門医を受診した方がいいだろう。
機能性ディスペプシアとはどんな病気なのか。胃の粘膜などに腫瘍やがんなど目に見える異常は見つからないのに、胃に慢性的な不快感が続く原因不明の不調だ。日本で正式な診断名として認められたのは2013年と比較的最近だ。
症状は大きく分けて(1)食後の胃もたれ、早期満腹感(2)みぞおちの痛みや焼けるような感覚――の2つある。症例が似ているため、慢性胃炎と診断されてしまうこともあるが、全く異なる病気だ。腫瘍などが認められないうえに、(1)か(2)の症状が6カ月以上前に始まり、3カ月以上続いていれば機能性ディスペプシアと診断される。
痛みなどが強い人は症状の期間に関係なく医師の診断を受けるべきだ。山王メディカルセンター(東京・港)の銭谷幹男医師は「市販品や処方薬にかかわらず、3~4日服薬しても改善が見られない場合は機能性ディスペプシアの可能性がある」と話す。痛みの原因が単に胃酸の出過ぎなら、市販薬で症状は抑えられるはずだという。
早期満腹感や胃もたれは通常、胃が十分に膨らまなかったり、胃の内容物を十二指腸に押し出すぜん動運動が弱まったりしていると起こる。機能性ディスペプシアの患者はこれが慢性的に続く。みぞおちに痛みや焼けるような感覚があるのは、胃や十二指腸の粘膜が胃酸に敏感に反応しているためで、こうした症状も長期間続く。
精神状態も影響する。仕事や家庭、育児など脳が感じ取るストレスや気分の不調は、胃の働きをつかさどる自律神経を乱してしまう。「体質や遺伝的要因もある。原因が1つだけではなく、いくつか絡み合って症状が出る」(銭谷医師)
消化器内科を受診しても、すぐに機能性ディスペプシアと診断されることはない。東京慈恵会医科大学の猿田雅之主任教授は、「隠れた病気を徹底的に調べる必要がある」と強調する。
診断が出るまでに、内視鏡に加え、コンピューター断層撮影装置(CT)や血液、腹部超音波、ピロリ菌感染などの検査を受ける。胃がんや胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの疾患がないか見極めるためだ。「膵臓(すいぞう)や胆のうといった臓器に病気が潜んでいる可能性もある」(猿田教授)
実際に機能性ディスペプシアと診断された場合、薬による治療は大きく分けて2段階ある。最初は、胃の働きを改善し、ぜん動運動を活発にする薬と、胃酸の分泌を抑える薬を症状に合わせて服用する。それでもよくならず、ストレスなど精神的な要素が強いとわかった場合は、抗不安剤や抗うつ薬が処方される。最近では、六君子湯(りっくんしとう)など漢方薬の効果も知られている。
ただ、最初に飲んだ薬が効くとは限らない。同時に複数の薬が処方されることもある。目に見える異常が見つからないことから治療が難しく、合う薬が見つかるまでに半年~1年かかる例もある。
症状改善に不可欠なのは、医師と患者の根気強いコミュニケーションだ。医師は生活習慣や職場環境など患者の情報から、「最適な治療法をあぶり出す」(猿田教授)。思うような改善が見られないからと、医療機関を転々と受診するドクターショッピングに走ってしまうことは避けるべきだ。
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食生活 適度に見直し
機能性ディスペプシアの予防・治療には、高脂肪食やアルコールを控えるなど食生活を見直すことが大切だ。ただ、「苦痛を伴う制限はすべきではない」(猿田教授)。この病気は精神的な要素も大きいだけに、ストレスを引き起こす見直しは避けた方がいいという。大事なのは、高脂肪食も酒もとり過ぎないことだ。
適度な運動も効果的だ。ウオーキングは胃や腸を適度に刺激するため、積極的に取り入れたい。やや速足で20~30分歩くと、気分転換にもなる。
不安や嫌なことを抱えると、胃が痛くなったり、腹を下したりという経験は多くの人がしているだろう。銭谷医師は「機能性ディスペプシアは難病ではない。あせらず、心配しすぎず治療することが大切だ」と話す。
(佐々木聖)
[日本経済新聞夕刊2020年7月8日付]
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