カジダン医師への道 大切なものを支えるため効率化
川崎市立川崎病院医師 田中希宇人氏
「名前のつかない家事」もあれば、「名前のつかない仕事」もある。自宅で家族と触れあっていて感じることがあります。
例えば、帰宅後に1歳(次女)、3歳(長男)、6歳(長女)の3人の子供たちを順番に風呂に入れているときです。私が浴室で1人ずつ洗い、脱衣所で待ち構えた妻がその後の着替えなどを引き取る。私一人で「子供の入浴」を完結させているわけではありません。手分けが必要で洗い係が逆のこともあります。次女の誕生にともない昨春に育児休業(育休)を取って24時間を家族と過ごしたことで、「名前のつかない家事」がいかに多いかを知りました。妻と二人三脚で家事・育児を進めていく大切さを実感しています。
こうした家族と過ごせる時間をつくり出すことが、仕事を効率的に進める原動力になっています。医師の仕事は外来や病棟での患者さんの診察・治療が代表的です。その他にも個々の患者さんの治療法について勉強する時間もあります。患者さんが健康を取り戻した後、円滑に社会生活をおくれるように保険申請や診断書の作成といった書類仕事もたくさんあります。これらの名前のつかない仕事を午前6時に出勤し、診察が始まる定刻8時半までにこなすことで、子供たちが起きている時間に帰宅できることを目指しています。
名前のつかない仕事を、決して、はしょっているわけではありません。名前のない仕事は、名前のついている仕事が完結できるように、サポートしていくものです。家事・育児もしかり。すべての社会生活にあてはまります。私は家族の喜ぶ顔が見たいし、患者さんをしっかり支えたい。「名前のないもの」にしっかりかかわることは、自分にとって大切なものに、役立っていきたい気持ちが出発点になる点で共通しています。
こうした観点で「時短」という言葉を捉えると、決して何かをばっさり切り捨てることが目的ではないものと思います。
私は今、医師・患者さんに向けてSNS(交流サイト)やブログを通じて最新医療の情報発信をしています。医師と互いに知見を深めることができれば、患者さんに提供できる治療法もより広く深いものにつながります。何より、患者さんやその家族に正しい医療情報を伝え底上げすることができます。互いに知見を深めることで、ゆくゆくは医療現場の時短につながるものと思っています。
SNSやブログの取り組みは、日常の医師の仕事とは別個のものですが、私の「名前のつかない仕事」の一つです。休日のちょっと空いた時間を使って構想を練っているときもあります。
家事・育児がオフタイム、仕事はオンタイムと必要以上に線引きすることよりも、効率化の目的は何かを明確にすることが一番、大切と思っています。
39歳。2005年慶應義塾大学医学部卒業、13年川崎市立川崎病院勤務。日本呼吸器学会呼吸器専門医など。ブログ「肺癌勉強会」やTwitter(@cutetanaka)で最新情報を発信中。
[日本経済新聞夕刊2020年6月30日付]
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