マインドフルネスで負の思考から脱出 グーグルも実践
ストレスや不安を感じることは誰にでもある。大切なのは、そのストレスや不安に対する心の持ちようだ。「今」をあるがままに捉える「マインドフルネス」を実践して、負の思考のパターンから抜け出そう。
私たちはストレスや不安を感じると、今を否定し過去や未来に目を向けがちだ。すでに起こった出来事をクヨクヨと思い悩んだり、実際には起こっていないことをモヤモヤと想像して心配し、さらに不安を募らせたりしてしまう。
そんな妄想にとらわれた「心ここにあらず」の状態から、「今この瞬間」に意識を向け現実をあるがままに捉える。そうした心の在り方や状態を作り出す方法を「マインドフルネス」と呼ぶ。確実な答えのない未来や変更しようがない過去に振り回されないようにすることで、ストレスを増幅させない効果がある。
また、マインドフルネスは視野を広げ、創造性を高める効果があるとして注目され、米グーグルなど国内外で研修に取り入れる企業が増えている。うつ病の心理療法として用いられることもある。
新しい概念や手法のように思われる。だが、心療内科医としてマインドフルネスの研究を行う、早稲田大学人間科学学術院の熊野宏昭教授は「日本にはもともと、茶道や武道などマインドフルネスに通じる文化がある」という。何気なく使っている「気をつけてね」という挨拶の言葉も、「『マインドフルにね』を意味している」(熊野教授)。五感を研ぎ澄まして現実をあるがままに感じ取り、暮らしの無事を願う言葉だ。
では、マインドフルネスはどのように習得するか。一つの手法として熊野教授は音を使った練習を勧める。まず、公園や家の中などで5~6種類の音を探す。公園なら鳥のさえずり、家の中なら冷蔵庫のモーター音などだ。これらの音を3段階で聞いていく。
目は閉じずに、少し先に視点を定めたら、最初は1つの音だけを聞き、1分間たったら次の音を聞く。すべての音を聞き終わったら、今度は聞く音を15秒程度で切り替えていく。これを5~6周繰り返したら、すべての音を同時に2~3分間聞く。慣れてきたら、最初から全ての音を同時に聞いても構わない。
この方法は、音への注意を持続させ、転換し、分割させていくことで、「余計な思考を浮かびにくくすると同時に、現実を幅広く、ありのままに感じ取ることを可能にしていく」(熊野教授)。
今を意識するマインドフルネスだが、暮らしの現場では未来にも向き合う。どう落とし込んでいけばいいのか。
慶応義塾大学医学部精神・神経科学教室の佐渡充洋専任講師は「脳が情報を処理する時には『することモード』と『あることモード』がある」と指摘。前者は目標を設定し段取りを考えて行動する「思考」モード。後者は今起きている現実をあるがままに感じ取る「感覚」モードでマインドフルネスの状態だ。佐渡講師は「2つのモードを必要に応じて切り替えられるようにすることがマインドフルネスを実践する目的」という。
この切り替えを意識的にできるようになると、ストレスや不安を増幅させることなく、今の状態を等身大のまま認められるようになる。「ネガティブな思考の反すうから抜け出せれば、今できる現実的な選択・行動に目を向けることができる」(佐渡講師)
よく誤解されがちだが、マインドフルネスはストレスや不安をなくすためのものではない。それらを感じている自分に気づき、その状況を認めて受け入れる。結果としてストレスや不安は軽減し「ウェルビーイング(主観的幸福度)を高めることにつながっていく」(佐渡講師)という。
(ライター 田村知子)
[NIKKEIプラス1 2020年6月27日付]
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