番組収録、急ピッチで再始動 3密避け新スタイルへ
コロナ禍で中断していたテレビ番組制作が再び動き始めた。出演者やスタッフらが顔をそろえる集団制作から、「3密」を避けた新たなスタイルへ。思い切った発想転換が求められている。
「ドラマの常識を捨てることから始めた」。松岡昌宏ふんする女装の"家政夫"が活躍するドラマ「家政夫のミタゾノ」(テレビ朝日系)の秋山貴人プロデューサーはそう振り返る。
新型コロナウイルスの影響で4月開始予定だった連続ドラマのほとんどが撮影中断を余儀なくされた。そんな中、「ミタゾノ」は俳優同士が会わずに撮影した1時間の「リモートドラマ」を特別編の新作として制作、5月末に放送した。遠隔撮影の制約を逆手にとり、テレワークがもたらす悲喜劇という世相を軽妙に描き、ファンをうならせた。
打ち合わせや演出はオンライン、俳優自らメークもした。機材は遠隔操作できる小型カメラや俳優自前のスマートフォン。19日から通常放送を再開したが、この経験から「当たり前だったことも視点を変え、工夫をすることで制約を乗り越えられるのでは」と秋山プロデューサーはみる。
大規模ロケできず
各局は4月以降、名作選や総集編といった再放送の対応に追われた。緊急事態宣言が全面解除され、6月に入ってから急ピッチで新作の収録を再開している。
制作現場は密閉、密集、密接の「3密」になりがちだ。大勢で企画を練り、スタジオには出演者やスタッフがずらり。ラブシーンやアクションなど、出演者が触れ合う場面も多い。
前例が通用しない事態に、各局は制作ガイドラインを設定。「ドラマ制作マニュアル」を作成したNHKは「出演者同士の距離は2メートルを守り、接近した芝居は出演者の同意を得る」とし、スタジオの準備も「カメラ、照明など部署ごとに段取りを分けて行っている」(同局)。「バラエティー番組での『安全確認シート』の記入」(日本テレビ)、「客入れ(観客入場)の原則禁止」(テレビ朝日)、情報番組の「スタッフのチーム分け」(フジテレビ)といった対応もある。
野外収録が中心のドキュメントバラエティー「緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦」(テレビ東京系)は、東京近郊の小規模の池を選び、ロケを再開した。放置された池をきれいにする「かい掘り」作業に住民ボランティアらが100~200人集まることもあったが、再開後の28日放送回では出演者とスタッフ10人以下と大幅に減らした。
「大規模なロケは現段階では不可能。番組独自のルールを作り、スタッフに周知している」と伊藤隆行プロデューサー。対策が進めば規模を拡大したロケを目指したいという。「制約があるなら、それをどう解釈するか。楽しみながら工夫することが大切」と語る。
シンプルな良さ
数多くのバラエティーを手がける伊藤プロデューサーは、お笑いタレントがスタジオに並ぶ「ひな壇」などの手法が問い直されるともみる。「人数を絞ると画面がさびしくなると心配したが、むしろ演者の力や魅力を再発見し、シンプルな良さを実感した」という。
多くの出演者やスタッフが携わる連続ドラマも、木村拓哉主演「BG~身辺警護人~」(テレビ朝日系)や篠原涼子主演「ハケンの品格」(日本テレビ系)などが放送を始めた。NHKも連続テレビ小説「エール」の収録を再開、大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」も30日から再び撮影に入る。
ただ依然として放送開始が遅れているドラマもある。夏放送予定の「ドラゴン桜2(仮)」(TBS系)など7月期以降のスケジュールも大幅な見直しを迫られており、コロナ禍は番組編成にも長く影響を及ぼしそうだ。
(関原のり子)
[日本経済新聞夕刊2020年6月23日付]
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