宅飲みはなぜか暴飲に 時間気にせず「確かに進む」

新型コロナウイルスの感染を懸念し、自宅でお酒を楽しむ「宅飲み」が広がっている。インターネットによるビデオ会議サービスを使い、仲間と会話を楽しむオンライン飲み会もコロナ流行を経てトレンドになった。しかし、宅飲みは帰宅や終電などを気にせずに済むため、飲み過ぎなどのリスクも伴う。飲み方を工夫し、健康への悪影響を最小限に抑えたい。

「今年は4月中旬を過ぎても飲酒に関する相談が多い。通常の年なら送別会や歓迎会、お花見シーズンが終わる4月上旬でほぼ一段落するのだが……」。米製薬大手の日本法人アッヴィに所属する肝臓専門医、浅部伸一氏はそう話す。

「酒好き医師が教える最高の飲み方」(日経BP刊)の監修者でもある浅部氏は新型コロナの余波で宅飲みの機会が増加し、健康に不安を感じている人々が増えたとみている。

同氏によると、宅飲みの最大の問題は飲酒量が増えやすいこと。酒好きの人は要注意だ。家に帰る必要がないため飲む時間が長くなるほか、酒量を把握しにくく、外で飲むよりも金がかからずに済むことなどが理由に挙げられる。

本当にそうなのか。同僚を誘い、オンライン飲み会に初挑戦した。画面越しとはいえ、なじみの顔ぶれのため、予想していたほどの違和感はなかった。ただ、通常の飲み会と違って会話のペースがつかめない。休憩のタイミングも逃し、確かに酒が進む。

2時間の宅飲みで空けたのは350ミリリットルの缶ビール3本、日本酒1合、そして焼酎をグラス1杯。厚生労働省が「節度ある適度な飲酒」の目安量として示す「ビール中瓶1本」や「日本酒1合」を大幅に上回ってしまった。

浅部氏は健康的にお酒を楽しむ秘訣として(1)何を飲んだのかをなるべく把握する、(2)おつまみや食事をバランスよく取る、(3)水やノンアルコールドリンクも飲んで脱水に注意する――などを挙げている。さまざまな種類の酒を飲む「ちゃんぽん」は必ずしも体に悪くないが、飲んだ量が分かりにくくなるので避けた方がいいという。

管理栄養士の高杉保美氏は宅飲みに適したおつまみとして半熟煮卵、あぶり焼きチキン、ベビーチーズを薦めている。おいしい、栄養価が高い、たくさん食べられるという3つのメリットがあるという。

「宅飲みの機会が増えれば、アルコール依存症に移行する可能性がある」と危惧するのは精神科専門医の高木希奈氏だ。「ずっと家にいることによるストレス発散や不眠の対処として、飲酒量が増えやすい」と指摘し、軽い運動や散歩、屋内での趣味など飲酒以外の気分転換にも取り組むよう勧める。

依存症の克服にも新型コロナが影を落とす。断酒など自助グループのメンバーが対面の会合を開きにくくなっているのだ。依存症問題に取り組むNPO法人アスク(東京・中央)の今成知美代表は「東日本大震災などの災害時もアルコール依存が問題となったが、今回は外出自粛により問題が周囲から見えづらい。より深刻だ」と心配する。

アスクは4月下旬からアルコール、薬物、ギャンブルの依存者らを対象に4つのオンライン会合を開催。6月上旬までに約100人が参加し、3分の2がアルコール関連だった。現在は対面の会合も再開したが、参加者の席を減らすなど影響は続く。今成氏は「オンライン会合はしばらく続けるので、依存症の人や依存症が疑われる人も積極的に参加してほしい」と呼びかけている。

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「オンラインは酒量増」3割超 終了時間決めて楽しく

飲み過ぎに気を付ける必要があるが、オンライン飲み会は感染防止や「巣ごもり」のストレス解消には有効な手段でもある。参加人数に制約がなく、遠く離れた友達とも気軽に飲めるのは魅力だ。現在広く使われているビデオ会議サービス「Zoom」はカメラに映る自分の背景を好きな画像で飾れるなど、宴会を盛り上げる機能が充実している。

オンライン飲み会を指南する専用サイトもある。キリンホールディングスは「クラフトビールと一緒に楽しもう! オンライン飲み会のススメ」を開設。同社調査によるとオンライン飲み会の経験者の3割以上が対面型に比べて飲酒量が増えたと答えており、サイトでは飲み会の終了時間を決める「スロードリンク」を提唱している。

(西村正巳)

[日本経済新聞夕刊2020年6月17日付]

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