覇権競争にしのぎ削る米中 鍵は構造的ストレスの解消独協大学教授 竹田いさみ

中国が人工島を建設する南シナ海を舞台に、米中の軍事的緊張が想像以上に苛烈である実態を、米海軍関係者への取材を通じて、ミクロに描いたのがマイケル・ファベイ著『米中海戦はもう始まっている』(赤根洋子訳、文芸春秋・18年)だ。中国による執拗な対米牽制(けんせい)が浮き彫りにされている。

権力構造分析を

ここで中国の権力構造を、冷静に理解することが求められる。共産党独裁体制と市場経済を矛盾なく受け入れる政治・社会構造に注目し、現代史を振り返りつつ習近平体制を解剖したのが、益尾知佐子著『中国の行動原理』(中公新書・19年)である。そして、習主席を現代の「中華帝国皇帝」として位置づけ、歴代王朝の皇帝像と重ね合わせながら、習近平が追求する「野望」「中国の夢」の思想基盤を描いたのが、山本秀也著『習近平と永楽帝』(新潮新書・17年)である。

過去200年を振り返って、グローバルに覇権を樹立した国家は英国(19世紀)と米国(20世紀)の2か国のみである。第2次大戦が勃発する前に地域覇権を目指したドイツと日本、冷戦期にイデオロギー覇権を夢見たソ連(現ロシア)は、グローバル社会を動かすだけの旺盛な経済力を持ち合わせていなかった。巨大な経済力なくして覇権国家になれない、というのが歴史の教訓である。

これらの著書を通じても、中国は不退転の決意で大国化を目指していることがわかる。米中覇権競争の激化が予想される中、国際社会は「トゥキディデスの罠」に陥ることを何としても回避しなければならない。

[日本経済新聞朝刊 2020年6月13日付]

米中戦争前夜

著者 : グレアム・アリソン
出版 : ダイヤモンド社
価格 : 2,200円 (税込み)

米中海戦はもう始まっている

著者 : マイケル ファベイ
出版 : 文藝春秋
価格 : 2,435円 (税込み)

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