素材の味引き出す、多様な食文化の源 兵庫・赤穂の塩

「銀波荘」の「鯛の塩釜」。陶器のように硬くなった塩を木づちで割る
「銀波荘」の「鯛の塩釜」。陶器のように硬くなった塩を木づちで割る

現在の兵庫県赤穂市では江戸時代、瀬戸内に臨む広大な干潟に潮の干満を利用した高度な「入浜(いりはま)塩田」を築いた。「塩の国」として全国に名をはせ、地元では「赤穂の塩」を生かした食文化が育まれた。

瀬戸内の豊かな海の幸と塩の文化を一度に楽しめるのが「鯛(たい)の塩釜」。多くの店が名物料理として供しており、老舗旅館「銀波荘」もその一つだ。新型コロナウイルスの影響で一時休業したが、消毒などの対策を徹底し、ほぼ平常の営業に戻った。

真っ白な塩で鯛の姿をかたどった塩釜がどんと鎮座する。赤穂の塩2キログラムに少量の卵白を混ぜ、粘りが出るまでもみ込んでから鯛を包み、約1時間かけて蒸し焼きにする。塩は陶器のように硬く、木づちで割ると桜色の真鯛が現れる。地元で取れた1.5キログラムの天然物だ。

塩が鯛のうまみを存分に引き出す

料理長の太村智浩さんがうろこ付きの皮をきれいにはぎ、白い身を取り分けながら、「塩がじわりと鯛になじんで、ちょうど良い塩加減」とすすめる。そのまま食べると身はしっとりとして鯛のうまみが口に広がる。「料理方法がシンプルなため、鯛そのものの味を引き出せる」と太村さん。1キログラムの鯛で2人分ほどで、事前予約が必要だ。

市中心部の蕎麦(そば)店「そば処(どころ)衣笠」で人気の「赤穂塩ねぎ蕎麦」は地元農家から仕入れた「赤穂塩ねぎ」をたっぷりのせた。生育中のネギに赤穂の塩やにがりを与えたもので甘みが増し、軟らかくなるという。ネギの甘みと食感を楽しみながら蕎麦をすする。店を切り盛りする木村公子さんは「ネギがあまり好きでない人にも好評」と語る。現在も営業中だが、冬場の来店もお勧め。ネギの甘みが増し、坂越湾で取れる旬のカキと合わせた「かき蕎麦」も味わえるからだ。

「そば処衣笠」で人気の「赤穂塩ねぎ蕎麦」は赤穂の塩を使って育てたネギをたっぷりのせる

塩気を利かせたまんじゅうや洋菓子など、赤穂には多様な塩の食文化が浸透し、飲食店や物販店では「赤穂の塩」の文字が目につく。ただ、江戸時代に栄えた大塩田はすでになく、今は市内の製塩会社が様々な製法で作った塩が赤穂の塩とされる。江戸時代の東浜塩田の流れをくむ赤穂化成(赤穂市)はオーストラリアの塩田で作った天日塩を輸入し、にがりを加えて昔ながらの塩を再現している。

同社は坂越湾の海水を伝統的な技法で濃縮し、平釜で炊く塩作りも復活。2017年から地元の土産物店などで「赤穂東浜の塩」として販売する。口当たりが良く、まろやかな味わい。担当者は「ゆで卵を食べ比べると、塩の違いがよく分かる」と話す。

<マメ知識>「日本遺産」認定で再評価
赤穂の塩は2019年に「『日本第一』の塩を産したまち 播州赤穂」として、文化庁が日本遺産に認定した。入浜塩田という革新的な製塩法を確立し、塩作りに携わる人々が生んだ文化や風習が評価された。
赤穂市も改めて赤穂の塩を観光資源としてブランド力を高めようとしている。赤穂の塩を使った市内の様々なグルメを紹介する冊子を2月に作成し、観光施設などで配布。伝統的な製法で作った昔ながらの赤穂の塩を土産物店で販売したり、地元の飲食店に提供したりする事業も準備中だ。

(神戸支局長 堀直樹)

[日本経済新聞夕刊2020年6月11日付]

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