スマホで医師に健康相談 話しにくい悩み画面越しなら
スマートフォンや電話を使った遠隔健康相談が広がっている。新型コロナウイルスの影響で病院に通うのが難しい人が増えているためだ。国の支援事業として期間限定ながら無料で相談できるサービスも始まった。診察はできないが、心身の健康不安について幅広く専門家の助言を受けられる。
経済産業省は3月、遠隔健康相談を無料で提供する支援事業を始めた。オンラインで応じるLINEヘルスケア(東京・新宿)やメディプラット(東京・中央)、キッズパブリック(東京・千代田)の3社と、電話相談中心のセーフティネット(同)の計4社に事業を委託。6月26日まで無料で相談でき、8月までの延長も検討している。
「乳児健診が延期になり、医師に直接相談できて助かった」「感染が怖くて病院に行きたくない。妊婦健診を遅らせても大丈夫ですか」――。小児科医や産婦人科医、助産師が相談を受けるキッズパブリックでは、母親らからのオンライン相談が増えている。
同社のサービスはLINEのチャット機能やビデオ通話などを使う。小児科医でもある橋本直也社長は「チャットによる相談は対面で話しづらい、と思う人に向いている」と話す。コロナ禍で家庭内暴力が増えているといわれる。橋本社長は「もともと社会にあった課題を感染症が顕在化させたのではないか。オンライン相談は蓄積した不安や孤立に対応できる」と実感している。
遠隔医療サービスは主に診療と健康相談に分かれる。診療は相談者の健康状態を判断して薬を処方できる。一方、健康相談は医師以外の看護師らが助言することも可能だが、「胃が痛いのなら内科を受診してください」などと診療を促すにとどまる。
遠隔健康相談の利点は移動が難しい高齢者や離島在住者でも利用しやすいことだ。初めてでも対面の必要がない。オンライン診療はコロナ禍が収束するまでの特例として4月から対面なしでも可能になっているが、「初診は対面」が原則だ。
病院へ出向いて聞くのをためらうような、小さな疑問にも答えてくれる。4月以降、外来を休止する医療機関が増え、患者も感染を恐れて通院を控えることが多くなった。一方で、コロナによる心身の不安を感じる人は増えている。その結果、遠隔健康相談のニーズが高まっている。
4月から正式にサービスを始めたLINEヘルスケアは需要増に合わせ、相談に応じる医師を2千人以上登録した。8千万人超が使う対話アプリの基盤を生かし、相談の利用者は急増している。事業企画室の角山翔大室長によると、病院に行く必要がある症状かどうかなど、ちょっとした疑問を持つ人は多い。「身近な相談窓口として活用してもらっている」と話す。
メディプラットは法人向けサービスを手掛け、社内診療所の代わりに内科や小児科、精神科など12科目の医師がチャットなどでの相談に応じる。「土日を含む24時間のサポート体制を整えている」(広報担当の渡辺千紘さん)。契約企業の社員だけでなく家族の相談も多いという。
電話でメンタルヘルスの相談に対応するセーフティネットには、1日100件以上の相談が寄せられている。同社の出倉利邦さんは「メンタルヘルスの相談は生の声を聞くのが最も効果的」とし、オンラインのチャット形式は原則採用していない。コロナ対応で不調を抱えがちな人が目立つ今、診療の前段階で不安の原因や健康リスクを自ら把握できる利点は大きい。
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保険は適用外 適正価格探る
遠隔健康相談は保険の適用外であるため、診療報酬とは別の市場価格になる。通常は企業や自治体などと法人契約している場合が多い。個人の負担は利用回数の制限なく、月額300~500円が主流だ。実費の場合は数千円かかることもある。
キッズパブリックでは1回の予約につき、枠は10分。LINEヘルスケアはチャット形式の相談が30分単位、と各社で内容はさまざまだ。経産省は、今回の無料支援事業で健康相談の実態や利用者の評価について、4社から報告を受ける。
今後有料サービスに戻る。自費で使いたい人が増える可能性もある。費用は安い方が利用者にはいいが、相談に対応する医師の質を維持するには極端に下げられない。同省ヘルスケア産業課の広兼佑亮課長補佐は「適正価格を見極めるためにも、社会の中での役割を検証していきたい」と話す。
(大久保潤)
[日本経済新聞夕刊2020年6月10日付]
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