肌荒れ? いえ水虫かも 梅雨時は要注意、早めに受診
梅雨時はカビの仲間である真菌による感染症が増える時期でもある。真菌感染症の代表格は水虫で、日本人の5人に1人が悩まされている。適切に治療しないとなかなか治らず、爪にできる水虫のように慢性化することも多い。別の皮膚疾患と間違えることもある。水虫かなと思ったら軽く考えず、専門医に診てもらうのが望ましい。
水虫は真菌の一種である白癬(はくせん)菌が足などで繁殖して起きる病気だ。皮膚の一番外側には角質(ケラチン)と呼ばれる防護層がある。白癬菌は角質内に侵入してケラチンをエサにして増殖するようになる。
白癬菌の増殖がある程度進むと、菌が異物(抗原)と認識され真皮の細胞にその情報が伝わる。すると免疫関連の物質やたんぱく質分解酵素が分泌され、これが過剰に進むと炎症の原因になる。皮膚が赤く腫れたり、小さな水ぶくれができたり、かゆくなるといった水虫の症状が現れる。
白癬菌は体の様々な場所に感染するが、足裏や足指の間に症状が出るケースが非常に多く、これを水虫とか足白癬と呼んでいる。
足指の間にできるのが「趾間(しかん)型」で、皮膚が白くふやけたようになる湿ったタイプと、乾燥タイプの両方がある。足裏の縁の部分や土踏まず、指の付け根などに、大きさ数ミリの水ぶくれが多数できるものは「小水疱(しょうすいほう)型」と呼ばれる。
このほか足裏、特にかかとの皮膚が硬く分厚くなる「角質増殖型」がある。「カチカチ型の水虫」ともいわれる。冬場は角質の乾燥が進んで、ヒビやアカギレを起こすこともある。肌荒れなどと思って見逃されてしまうことが多い水虫だ。
白癬菌が爪の内側に感染して、爪が盛り上がるように分厚くなったり、変色・変形したりすることがある。爪白癬といわれるこの爪の水虫の多くは、足白癬に続いて起きる。爪の先端から病変が広がる「遠位型」、爪の根元から進む「近位型」、爪の表面に病変が現れる「白色表在型」などに分けられる。
治療はクリームなどの外用剤と、内服薬に大別される。日本医科大学で真菌外来を担当する田沼弘之連携教授は「多くは外用剤で対処する。外用剤が使いにくい場合、内服薬を選択する。水虫のタイプや患者の状態に応じて両者を組み合わせることもある」という。
足白癬の場合、指の間にできる趾間型や、水疱ができる小水疱型は病巣が深くないため、クリームなどの外用剤をよく使う。皮膚表面がカチカチになる角質増殖型は、クリームなどでは患部に到達しづらいので、内服薬を選ぶことが多い。爪白癬の場合、専用の外用薬を使うか、内服薬を使うか状態によって判断する。
国内の疫学調査によると、足白癬の人は22%、爪白癬は10%とそれぞれ推定されている。爪白癬の患者の大半は足白癬にもかかっているという。罹患(りかん)率は年齢とともに高くなり50~60歳代で約30%、70歳代以上だと50%以上になる。高齢者施設で感染が広がっている例が目立つ。
水虫は感染が長引くほど治りにくく、慢性化する。足の角質増殖型や爪白癬は治療に時間を要する場合が多い。趾間型や小水疱型は外用剤で短期に効果が出ることもあるが、完治する前に治療をやめたために再発を繰り返すケースもある。
水虫の感染は、浴場やスポーツ施設の脱衣場のマットを素足で踏んだり、患者がはいたスリッパを使ったり、タオルを使い回ししたりすることで、白癬菌をもらってしまうことが多い。水虫の患者がいる家庭や、スポーツ施設などではサンダルや靴下を着用するのが感染を避ける第一歩だ。
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混同しやすい他の病気も
水虫は他の皮膚疾患と混同される場合も多い。日本医科大学の田沼弘之連携教授によると、患者が水虫を疑って受診し、本当に水虫であるケースは6割程度にとどまる。市販の水虫用の塗り薬を長く使ってもなかなか治らず、受診したら水虫ではなかったということもよくあるという。
手のひらや足の裏に膿(うみ)などがたまった数ミリの水ぶくれが繰り返しできる掌蹠(しょうせき)膿疱(のうほう)症は、足白癬と間違えやすい病気だ。手足の角質が異常に厚くなる掌蹠角化症は、角質増殖型の水虫と混同しやすい。接触皮膚炎(かぶれ)や乾癬(かんせん)も足白癬と誤りやすい。
爪白癬と紛らわしい病気としては、同じ真菌感染症である爪カンジダ症や、爪が先端部からはがれる爪甲剥離症、掌蹠膿疱症、乾癬などがあげられる。
皮膚科でも水虫とこうした他の病気を間違うこともあるという。真菌症の診断は病変部の試料を顕微鏡で観察して菌の種類を確認する。田沼さんは「同じ皮膚科でも水虫や真菌感染症に強い専門医を探して診断を受けるのが望ましい」とアドバイスする。
(編集委員 吉川和輝)
[日本経済新聞夕刊2020年6月3日付]
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