無観客、入場日時指定… 劇場や博物館が「3密」回避
緊急事態宣言が解除され、文化芸術分野で新型コロナウイルス感染防止のガイドライン策定が進む。「3密」を避けながらのイベント再開へ、かつて経験したことのない試行錯誤が続く。
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政府の方針を受け、各業界が自主的な感染予防のためのガイドラインを策定。密閉、密集、密接の「3密」を避けるといった基本に沿い、全国公立文化施設協会などがガイドラインを公表。チケット窓口などの行列は最低1メートル(できれば2メートル)空けることなどを盛り込んだ。感染者が発生したら迅速に対応できるよう、来場者の氏名や緊急連絡先の記録も検討する。
日時指定し予約
博物館や美術館は混雑防止のため日時指定予約の導入や、床に1~2メートル置きに目印をつけて来館者の距離を保つことを提言。劇場や映画館も客席の前後左右を空けるよう推奨する。各施設はガイドラインを基に具体策を詰める。
すでに再開した美術館や博物館の多くはスタッフの検温やマスク着用、混雑時の入場制限などの対策を導入した。利用者を県民に限った徳島県立近代美術館や、県外からの来館自粛を求める静岡県立美術館のように遠方からの来館を抑制する施設もある。
もっとも、ガイドラインには実施が難しい内容も含まれ、ハードルは高い。博物館や美術館で「日時指定予約を導入した場合、そうと知らずに来館された方にどこでお待ちいただけばいいのか」(ポーラ美術館)。周知の仕方と待機場所の確保に悩む。
座席の間隔を空けることを求められた劇場や映画館。あるミニシアター関係者は「間隔を空ければ数人しか入場できない。上映すればするほど赤字になる」と嘆く。
劇場や音楽ホールは、必須条件ではないが、出演者同士が舞台上で近づかず、マスクを着用することも盛り込まれた。出演者全員が常に離れたままでいるのはぼぼ不可能だ。
そんな中、本多劇場(東京・世田谷)は1日、無観客のひとり芝居「DISTANCE」で再開。約40分の公演を有料で生配信している。川尻恵太と御笠ノ忠次の企画、脚本、演出による「かつて劇場があった場所」を舞台にした物語で、片桐仁らが日替わりで出演。7日まで上演する。
下北沢地区で8つの中小劇場を展開する「本多劇場グループ」の本多愼一郎総支配人は「安全を保つことは必須で、その上でお客さんに楽しんでもらう環境を作りたい」と強調。さまざまなシミュレーションを重ね、新しい演劇公演のあり方を探るという。
徐々に規模拡大
音楽界では日本クラシック音楽事業協会と日本オーケストラ連盟、日本演奏連盟、主要な民間・公共ホールが「クラシック音楽公演運営推進協議会」を発足させた。公演再開へのガイドラインをまとめ、具体的なロードマップも作成する。まずは無観客からを想定。感染の状況をにらみつつ、小規模のソロから室内楽、オーケストラ、オペラと規模を拡大していく。感染防止策を検証するため、モデルコンサートも計画する。
不特定多数が訪れる図書館では、利用者が返却した資料を一定期間保管・管理する海外の事例が示された。検索用パソコンは利用者ごとにキーボードを消毒するといった対策も挙げられたが、各館とも限られた人員やペースで対応できるか不透明だ。
ガイドラインは活動再開への第一歩にすぎない。再び感染が拡大すれば長期休業は避けられず、各業界とも慎重姿勢を崩さない。文化・芸術では未曽有の非常事態が依然続く。利用者の理解も求めながら、関係者が広く情報を共有する努力が欠かせないだろう。
[日本経済新聞夕刊2020年6月2日付]
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