ベトナムの大衆食堂 出来たておかず、1食200円
ベトナムを代表する大衆食堂と言えば「コムビンザン」。ベトナム語で平民のご飯という意味で、早くて安くうまいのが特徴だ。たくさんのおかずの中から自分が食べたいおかずを指さすと、店主が手際よく盛り付けしてくれる。おかずの種類により価格は異なるが4万ドン(200円)ほどでおなかいっぱいになる。
ハノイ市中心部のオフィス街にあるお店では午前11時30分過ぎからビジネスマンらが列をつくる。人気店では早く並ばないとおかずの選択肢が少なくなるからだ。屋内レストランのような清潔さはないが路上のプラスチックの椅子に座って食べることもできる。
それぞれのトレーに入っているおかずは肉や魚、野菜など約20種類。店の台所で調理をしているため新鮮で温かい。希望の値段を伝えると店主は目分量でおかずを調節してくれる。常連客は店主に構わず自分で好きなおかずをプレートに盛り付け、ご飯をよそってもらっていた。
20年前から店舗を構えるブイ・トゥエット・ランさん(44)。お店の営業時間は午前11時から午後1時まで。多い時には1日200人の客が訪れるという。テト(旧正月)以外は毎日営業するといい、「お客さんが困るから私たちに休みなんてないわよ」と話してくれた。
女性会社員のファン・マイ・チーさん(40)は「同僚と同じ店で食べることにしている。この習慣は昔からずっと変わらない」と話す。夏の暑い日や雨の日は職場に持ち帰って食べるという。
ベトナム料理は隣国の中国の影響を強く受けており、フランスの植民地統治の時代を経て、独自の食文化を形成してきた。「コムビンザン」も各国の影響を受けながら誰でも気軽に食べられる大衆食堂として庶民の懐を支えてきた。
ベトナムでも新型コロナウイルスの感染拡大で長期間にわたり外出自粛を余儀なくされた。外食文化が根付く同国でも自宅で料理する機会が増えたという。密集した場所で食事を取るコムビンザンにも逆風が吹いている。世界的な収束が見えないコロナが食文化にも影響を与えている。
(ハノイ=大西智也)
[日経MJ 2020年6月1日付]
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