鶏ガラあっさり深いコク 長崎・雲仙の小浜ちゃんぽん
長崎県を代表するグルメといえば、誰もが「長崎ちゃんぽん」を思い浮かべるだろう。実は雲仙市の小浜(おばま)温泉に知名度こそ劣るものの、地元住民を中心に愛される「小浜ちゃんぽん」がある。ややあっさりした味わいの中にしっかりしたコクもあり、全国的な注目度も高まりつつある。県内ではコロナ禍が落ち着いてきたこともあり、店舗は現在、消毒の徹底などで通常営業を続けている。
長崎市内から車で1時間ほど。小浜温泉の手前にあるのが「お食事処 心」だ。店内で手を消毒してから席に座る。窓を開けるなどして換気も徹底している。注文するとキャベツやニンジン、カマボコ、キクラゲなど12種類の具材が入った丼が出てきた。
「豚骨と鶏ガラを合わせたスープで飲み干しても飽きない味わい。見た目の彩りにもこだわっている」。店主の森田哲生さんは説明する。食を使った地域活性化のために結成した「小浜ちゃんぽん愛好会」の会長も務める。「野菜や麺などの素材はなるべく地元の島原半島や近隣の熊本県の天草地方のものを使っている」と教えてくれた。
次に向かったのは「食楽大盛」。こちらは先ほどより白濁したスープ。野菜の甘みも感じられ、見た目に反して食べやすい。共同経営者の佐藤忠大さんは「豚骨と鶏ガラに火を付けては冷ましてを繰り返し、2日間かけて作る。水だけで炊いているのが特徴で、炒めた野菜とマッチするようにしている」と話す。
小浜温泉には唐揚げ入りのちゃんぽんを出す「ニュー小浜」や透き通ったあっさりスープが特徴の「入潮」など10店以上がある。愛好会の一員で「ちゃんぽん番長」こと雲仙市職員の林田真明さんは「長崎ちゃんぽんは一般的に濃い豚骨スープが特徴。小浜ちゃんぽんは鶏ガラも使った店が多く、比較的あっさり」と語る。多くの店は殻付きの小エビも使っており、海のダシも感じられる。
小浜ちゃんぽんが域外で知られるようになったのは愛好会の活動がきっかけだ。1990年の雲仙普賢岳噴火の影響が落ち着きつつある中で、街にかつてのにぎわいが戻らないことへの危機感があった。林田さんは「知名度の高い長崎ちゃんぽんとは違った魅力があり、全国から人を呼び込める」と感じ、2007年には当時の18店を紹介するマップを作製した。
長崎県は27日時点で、県境を越えた移動への慎重姿勢を崩していない。林田さんは「事態収束後はイベントなども積極的に行い、地域を盛り上げたい」と意気込んでいる。
小浜ちゃんぽんは長崎市の「長崎ちゃんぽん」や熊本県天草市の「天草ちゃんぽん」と並び「三大ちゃんぽん」といわれることもある。地域のイベントやご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」などに積極的に参加し、知名度向上に努めている。小浜ちゃんぽんを提供する店は食堂が多く、ハンバーグやコロッケなどのメニューも充実している。2007年に発行したマップは版を重ねて累計20万部を突破。ちゃんぽん目当ての観光客はピーク時には週1万人規模に達し、着実に「街の顔」になっている。
(長崎支局長 古宇田光敏)
[日本経済新聞夕刊2020年5月28日付]
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