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共英製鋼の大北剛さん

共英製鋼の大北剛さん

様々な建物を「骨」として支える鉄筋用棒鋼。国内最大手の共英製鋼で2年前、同社最年少の営業部長になったのが大北剛さん(45)だ。ベトナム子会社で副社長を務めた経験もあり、国内外の取引に精通する。顧客の要望に応えるために何をすべきか、何ができるかを「考えぬく営業」で受注を重ねてきた。

「何ができるか考えぬく」。大北さんが第一に掲げるポリシーだ。同社が製造する棒鋼や形鋼は他社との質の違いを打ち出しにくく、価格差も小さい。受注競争でカギを握るのは営業力だ。流通を担う商社や鉄筋問屋に鋼材を扱い続けてもらうにはどうするか。顧客の要望を丹念に聞き、希望に添えない場合も「どうすれば納得してもらえるか」を徹底的に考える。

例えば納期短縮などの難題が浮上した場合、まずは在庫や工場の稼働状況などの情報を集める。その上で納期から日程を逆算して製造工程を変え、他の顧客から製品の一部を融通してもらうなどの手を打つ。緊急時に無理を聞いてもらうには関係者との間で日ごろからコミュニケーションをとっておく必要がある。

「考えぬく営業」の原点は入社直後に配属された事業所での出来事にある。大北さんは、ある鋼材加工業者への納入を担う商社を切り替えた。すると鋼材加工の社長から後日、「長年取引をしてきたのに、こんな仕打ちを受けたことはない」と涙ながらの抗議を受けた。当時勢いのあった商社との関係を重視するあまり、企業同士の長年の絆に思いが至らなかった。

大北さんは過ちに気づき、元の商社との取引を再開した。利益や効率に気をとられ、ステークホルダー(利害関係者)の事情にまで考えが及んでいなかったと反省した。

顧客に対する「誠実さ」も重視する。トラブルがあれば労をいとわず急行する。輸出向けの半製品の販売で韓国の鉄鋼メーカーからクレームが付いた。品質ではなく、使い方に問題があると察しはついていたが、翌日には現地に向かい、相手が納得するまで丁寧に説明した。

そんな大北さんの姿勢を顧客は忘れない。2008年のリーマン・ショックで受注が枯渇した際に「何とかなりませんか」と韓国まで頭を下げに行くと、自身の経営も苦しいはずの鉄鋼メーカーが「大北のためなら」と発注をしてくれた。

誠実さにこだわる背景にも失敗談がある。若手時代、ある取引先の歓心を買おうと、他社向けと同じ値段の製品を「特価」と言って売り込んだ。だが取引先にウソがばれて信用を失い、結局は受注を減らした。「小細工は通用しない」。信頼は日々の努力で積み上げるものだと学んだ。

海外でも考えぬく姿勢と誠実さは変わらない。35歳でベトナム事業の屋台骨を担う子会社ビナ・キョウエイ・スチールの副社長に抜てきされ、大規模プロジェクトの受注を目指した。現地ゼネコンの担当者の元に足しげく通い、品質や契約方法で「相手が求めていることが見える」までコミュニケーションを重ね、初の取引で大型マンション10棟ほどの鉄筋を受注した。

「家族として成長しよう」を合言葉に、現地の鋼材問屋との関係づくりにも奔走した。特に用事がなくても取引先を2週に1度は訪れた。ベトナム人ばかりの食事会にも顔を出し、必死に覚えた片言のベトナム語で話しかけた。こうして築いた信頼関係はウソをつかない。6年余り滞在したベトナムから日本へ帰国する間際の16年3月。月間12万トンの鋼材を販売し、これは現在も破られていない共英製鋼での記録となった。

現在は同社最大の製造拠点である山口事業所の営業部長を務める。マネジメントが主な業務となった今も自分の担当を持ち、営業に繰り出す。現場での姿を部下に見せることで指導も説得力が増す。

今後の目標を尋ねると、じっくりと考えてから「日々の仕事を重ねるだけです」と、はにかんだ。一見、こわもてなのに柔らかい笑顔を見せるのも、ファンが多い理由に違いない。

(苅野聡祐)

おおぎた・たけし
1997年に共英製鋼入社。2009年11月から6年余りベトナム現地子会社の副社長を務める。16年5月に山口事業所営業部に異動し、18年1月から営業部長。
[日経産業新聞 2020年5月26日付]

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