果肉は滑らかで後引く甘さ 茨城・鉾田のメロン
メロンの名産地というと、北海道や静岡県を挙げる人が多いのではなかろうか。実は茨城県こそが21年連続で国内トップの生産量を誇る「メロン王国」だ。同県は近年、独自に開発した「イバラキング」の栽培に力を入れており、名実ともに日本一の称号を手に入れることを目指している。コロナ禍で今回紹介する店舗は現在、時短営業中だ。
「天候には恵まれなかったが、例年よりは出来が良い」。JAほこた(同県鉾田市)のメロン研究部長、根崎直喜さんは最盛期を迎え、ハウス内で大きく育った多くのイバラキングを前に満足そうな表情を浮かべる。
鉾田市がある鹿島灘沿岸は温暖で昼夜の温度差があり、水はけの良い火山灰土であることからメロン栽培に適している。全国シェアは約3割を占めるが、知名度は高くない。ブランド化の切り札として誕生したのがイバラキングだ。「大玉になりやすく、肉質が滑らかで舌触りが良い。爽やかで後引くような甘さが残るのが特徴」(根崎さん)
JAほこたの直売所「ファーマーズマーケットなだろう」では根崎さんらが育てたイバラキングが並ぶと、1玉1000円台から買える値ごろ感もあり、飛ぶように売れる。コロナ禍を受け、鉾田市内の販売店「さんて旬菜館」も電話やファクスなどでの注文受け付けを強化している。
イバラキングは同市以外でも味わえる。JR常磐線の土浦駅前の和洋菓子店「高月堂」(同県土浦市)はイバラキングのスイーツを販売。人気は近くを走る日本最長の自転車道をモチーフにした「茨城メロンリンリン」だ。同県産の小麦粉を使った生地に2種類のクリームをのせ、カットしたイバラキングと自転車をかたどったチョコレートなどをあしらった。イバラキングの甘さが心地良く、これからの季節にぴったりだ。「サイクリストが予約して買いに来てくれる」(沢辺泰弘社長)
東京都内の靖国神社にほど近いフランス料理店「レストランウラノ」(東京・千代田)はコース料理のデザートに「茨城メロンとバジリコのスープ仕立て」を提供する。イバラキングとアーモンドのアイス、バジリコ風味のババロアなどを涼しげな器に盛り付けた。イバラキングとバジリコが爽やかな香りを放ち、甘さや食感の違いが絶妙なハーモニーを生み出す。シェフの浦野健次郎さんは「子どものころからメロンに憧れを持っていた。メロンジュースのイメージで作った」と笑う。
民間調査会社の魅力度ランキングで7年連続最下位の茨城県。イバラキングをぜひ味わってもらい、同県の奥深さを感じ取ってほしい。
茨城県ではアンデスメロンやクインシーメロンなど様々なメロンを生産しているが、日本一の産地ということはあまり知られていない。ブランド力のある独自品種を作ろうと、茨城県農業総合センターが10年以上かけて400通り以上の品種改良を重ねてきた。滑らかな口当たりと芳醇(ほうじゅん)な香りを持つアールス系メロンと、茨城県の気候風土に適して甘みが強く、果実が大きく育つアンデス系メロンをかけ合わせて「イバラキング」が誕生。2010年に品種登録した。
(つくば支局長 浅沼直樹)
[日本経済新聞夕刊2020年5月21日付]
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