クビを覚悟で最後の受注競争 未経験の大型案件獲得丸紅社長 柿木真澄氏(下)

英国駐在時代、商談に臨む柿木氏(右から2人目)
英国駐在時代、商談に臨む柿木氏(右から2人目)
■1998年、英ロンドンに赴任。変革期を迎えた電力事業を開拓する。

中東しかやったことのない私に、ロンドン赴任の打診がありました。

当時は世界で電力事業の規制緩和が進み、発電所を自ら運営して電力会社に売電する「IPP(独立系発電事業者)」いうビジネスモデルが生まれたばかり。金融市場が整備され、弁護士事務所も充実し、関連メーカーも集積する欧州から中東のIPP事業を開拓することが私に与えられたミッションでした。

家族を伴い赴任しましたが、しばらくは苦戦しました。EPC(設計・調達・建設)と呼ばれる発電所の建設請負の経験はあっても、IPPは未知の領域。数多くの入札案件に参加したもののノウハウがなく失注が続き、組んでくれるパートナー企業もだんだんと少なくなっていきました。

■会社から最後通告を受け、大型案件に背水の陣で臨む。

やり方を変えないといけない。そう思っていた矢先に浮上したのが、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビでの「IWPP」案件でした。IPPに海水淡水化事業を加えたものです。発電能力は計200万キロワットと、原発2基分におよぶ大型案件です。会社から「これが最後だ」と言われ、クビを覚悟して挑みました。

失注が続いた一因は、プロジェクトの維持管理コストの見積もりを他者任せにしていたことでした。そこで私は、丸紅自身がリーダーとなり企業連合を組織することにしました。

しかし呼びかけに応じたのは、発電所の運営経験がない素人3社のみ。そこで覚悟が決まったのかもしれません。社内のエンジニアや電力会社出身者をかき集め、手探りでコストの見積もりを進めました。

■独シーメンスとの提携が転機に。

あるとき転機が訪れます。シーメンスが「一緒にやりたい」と声をかけてきたのです。EPCではライバルでしたが、一転してパートナーになりました。当時は世界的に金融が縮小していて大型案件にお金が集まらない状況で、日本を当てにしていたわけです。

組んだ金融機関は国際協力銀行(JBIC)でした。同行は入念に審査する半面、時間がかかります。当社はIPP入札に何度も失敗しましたが、その経験で事前に正確な予測をするノウハウが身につきました。

早い段階から相談していたからでしょう。当時の日本で過去最大規模のプロジェクトファイナンスを組み、受注も勝ち取りました。新しいことをやる際の創意工夫は、逆境を覆す原動力になることも学びました。

あのころ……

発電設備の建設請負事業から始まった商社の電力ビジネスは、1990年代からIPPへと本格的にシフトしていった。2000年代以降は日本の電力会社も海外のIPP事業へ参入。金融を含めて多額の日本マネーが海外電力事業に投じられていくこととなる。

[日本経済新聞朝刊 2020年5月19日付]


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