在宅で熱中、精巧ペーパークラフト 無料図面も充実
紙が動物や乗り物に変身するペーパークラフト。精巧なデザインには驚かされる。近年は若手作家も増えており、家で過ごす時間の多い今、注目度も上昇中だ。奥深い世界を体感した。
興味を持ったのは知人の体験談がきっかけだ。新型コロナウイルス感染拡大で外出できない休日、子どもと作ったら、リアルな出来栄えに驚いたとか。挑戦したくなった。
まずは基本から。「切る、折る、貼る、組み立てる。4つの作業の組み合わせで形を作ります。分解すれば紙に戻るともいえます」。日本ペーパークラフト協会事務局長で、紙立体製品の紙宇宙(東京・新宿)社長を務める楠田信太郎さんに教わる。
紙を使う造形の歴史は古いが、我々が目にするペーパークラフトは印刷文化が定着した戦後広がったという。少年少女向け雑誌の付録で人気を集め、今も販促ツールやアニメ・漫画とのコラボグッズなど幅広く活用されている。実在の建築物を再現した巨大模型やアート作品も多い。
見るだけでもワクワクするが、やはり作ってみたい。楠田さんにはプリンターのメーカーなどがウェブサイトで無料公開する「展開図」を薦められた。好みの図面をダウンロードして印刷すれば準備完了。厚手の紙を使えば丈夫に仕上がる。最適な紙の種類を紹介するサイトまである。紙選びに悩むときは普通のコピー用紙でもいいそうだ。
用意する道具はカッターナイフ、定規、机を傷つけないカッティングマットなど。楠田さんは「接着剤は木工用がお薦め。折る部分はつまようじやインク切れのボールペンで切る前に折り筋を付けておくと、後の作業がスムーズ」と助言。スタッフの方が実際の工程を見せてくれた。
早速、キヤノンのサイト「クリエイティブパーク」で図面を探した。20年以上の歴史があり素材の掲載数は4千超。ペーパークラフトに絞っても、子どもが楽しめるシンプルなデザインから、大人でも数時間かかる精密なものまで多彩だ。目移りする。
聞けば外出自粛も影響してかダウンロード数が急増し、4月は前年の2.2倍に達したそうだ。最近の人気ベスト3は「手乗りハリネズミ」「寿司(すし)クラフト01」「柴犬(しばいぬ)」。手始めに3つとも作ってみた。最初は線に沿って切るのすらままならない。曲線は紙を動かしながらと言われたが、力が入りすぎて失敗。細かいパーツはうまく曲がらず、のりしろから接着剤がはみ出る。
助言を思い起こす。事前に折り筋を付ける。紙の上に接着剤を出しておき、のりしろにはようじや紙の切れ端で慎重に塗る。貼り合わせた後は指で押さえて整形し、細かい部分はピンセットを使う。柴犬を作り終えるころには慣れてきた。紙宇宙提供のコーギーなど3種の犬にも挑戦。平らな図面を見たときは「なぜこんな形?」と思ったが、組み上がると愛らしい表情に。癒やされる。
次は観光列車企画でも取材した鉄道会社のサイトへ。JR西日本では懐かしの寝台列車トワイライトエクスプレスから人気のドクターイエロー、鉄橋、駅もダウンロード。近畿日本鉄道は今年3月に走り始めたばかりの特急「ひのとり」、JR九州は感染拡大を受けた「その日まで、ともにがんばろう」プロジェクトの一環で九州新幹線の新800系を公開していた。
ファンとしてはずらっと並べてみたい。丸みを帯びた車両の先頭部分や機関車は細かくて手が震える。家族に半ばあきれられながらも時間を忘れて向き合う。数日がかりで完成させると、今にも走り出しそうに見えてきた。
最近は自分好みの形を3Dで描き、図面にできるソフトもあるそうだ。1枚の紙から広がる世界は果てしない。
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展覧会・サイトで公開も
アナログな印象があるペーパークラフトだが、最近はデジタル技術を採り入れ、リアルな造形を追求する動きが広がる。日本ペーパークラフト協会では作家や印刷加工業界と協力して雑誌付録からアートまで様々な作品を集めた展覧会を開く=写真。中国や欧州諸国など海外との交流も盛んだ。
作家自身の情報発信も目立つ。JR西日本が公開する「大阪ステーションシティ」を設計、制作動画も手掛けたクラフト作家のマキノシュンイチさんはSF世界を紙で表現した作品を自らのサイトで公開。「取りかかりやすく、やってみると奥が深い。紙なので失敗してもすぐやり直せるのも魅力」と話す。意外にはまる大人が多いというのもうなずける。
(河野俊)
[NIKKEIプラス1 2020年5月16日付]
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