重箱に詰めた旬の味 見た目が楽しい山形・月山の山菜
冬には10メートルを超える積雪がある山形県の月山は、春になるとスキーや山菜料理で多くの観光客を集める。ただ、今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、例年7月まで営業できるスキー場は一時休止。山菜料理の名店も来店客の受け入れを停止したが、重箱に詰めた山菜を通信販売することで、旬の味を自宅で味わえるようにしている。
「山菜を目でも味わってほしいので、生の山菜も入れている」。山形県西川町の料理旅館「出羽屋」の佐藤治樹社長は重箱に込めた思いを語る。山形の桐(きり)箱職人に特注した3段重ねの重箱には、おひたしやあえ物など30種類がぎっしりと詰まる。
このうち1段は採れたてのタラの芽やウドなど生の山菜7~8種類を入れている。天ぷらにすると、かすかな苦みなど山菜特有の味わいが広がる。佐藤社長は「自宅に籠もりきりでも季節を感じてもらえれば」と話す。
新型コロナの影響が出始めた1月ごろからインターネット通販への対応を急ぎ、家庭で味わえる「月山山菜そばセット」なども発売した。今後は山菜ソーセージなど品ぞろえを広げていく考えだ。
西川町の料亭「玉貴(たまき)」も4月20日から店の営業を休止し、「月山 春の香味箱」を通販している。強い苦みが特徴のアケビの新芽やシャキシャキとした食感のニリンソウ辛子あえなど、店の名物料理を詰め合わせた。
異彩を放つのは瓶入りの「自家製山ぶどう液」。アルコールは入っていないが、濃厚な香りで食前酒のように楽しめる。若女将の阿部清美さんは「ハチミツを加え、沸騰しないように作った。40年以上続く看板商品」と説明する。
コロナ禍の影響は深刻だ。阿部さんは「ゴールデンウイークは連日200人以上の予約が入るが、今年はゼロ」と語る。それでも通販の注文が増え始め、「6月には『月山筍(だけ)』が始まる。今しか味わえない旬を楽しんでほしい」と前向きだ。
山菜採りを担う高齢者がコロナ禍で売り先に困っているため、玉谷製麺所(西川町)は「月山の山菜DE応援セット」を急きょ商品化。著名な奥田政行シェフのレシピを付け、収穫したばかりの山菜に自家製パスタやそばをセットにして発送する。フードアナリストでもある玉谷貴子専務は「ウルイやアオミズの食感はパスタとの相性も良い。販売手段を確保することで月山に恩返しをしたい」と話す。
月山は山伏が修行する信仰の山でもある。山菜は修験者の食材でもあったが、出羽屋が戦後、調理法を工夫し、本格的な山菜料理として広まったという。佐藤社長はデザートにも山菜を取り入れ、最近は多くの訪日外国人客も来店した。山菜は各地で採れるが、出羽屋は3月31日を語呂合わせで「山菜の日」として登録。山菜が出回る時期より少し早いが、「山菜王国」を掲げる山形県西川町はイベントなどでアピールしている。毎年5月下旬には「月山山菜市場」を開くが、今年は中止になった。
(山形支局長 浅山章)
[日本経済新聞夕刊2020年5月14日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。