食道がん前段階といわれたら? リスク見極める5項目
ある日「食道に前がん病変がある」といわれたら――。前がん病変とは、がんになる可能性のある細胞変異の総称。食道がんになる人の多くが持っているとみられるが、その存在を含めて意外に知られていない。すぐ体に悪影響を及ぼすとは限らないが、がんになる可能性を抱えたやっかいな居候だ。どう付き合えばよいのだろう。
前がん病変はがんの前段階で、遺伝子変異が蓄積し、がんになる可能性がある状態をいう。正式な病名ではなく、医療関係者の間で使われる俗称だ。できる場所も原因もばらばら。定期健診で見つかる大腸の腫瘍性ポリープや子宮頸(けい)部の細胞が隆起する異形成などが知られている。
ただ、食道に前がん病変ができることはあまり知られていない。粘膜の表層部に見られる「異型上皮」や「上皮内腫瘍」と呼ばれるものが大半で、なかにはがんになりやすい性質の病変もある。
ほとんどがお酒の飲み過ぎやたばこの吸い過ぎによる。虎の門病院(東京・港)消化器内科の布袋屋修部長によると、50歳以上の男性で、日本酒を1日1.5合以上飲む人やたばこを1年間で40箱以上吸う人は、全く飲酒や喫煙をしない人の5倍以上がんや前がん病変になりやすいという。
がん研有明病院(東京・江東)上部消化管内科の由雄敏之副部長によると、ビール1杯程度で顔が赤くなるほどだったのに「鍛えて飲めるようになった」という人は要注意だ。アルコール代謝の過程で発生する発がん物質、アセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱いままだからだ。
前がん病変は正常な食道より表面がざらざらしているが、内視鏡で見るだけでは区別が難しい。
代表的な検査は、茶色のヨード液を食道に散布して内視鏡で観察する方法。正常なら均一に茶色に染まるが、がんや前がん病変は染まらないか、淡く染まる。こうした部分の組織を採取して顕微鏡で判断する。
クリニックや定期健診でヨード検査はあまり一般的ではない。だが、布袋屋部長は「日本消化器内視鏡学会に加盟する専門的な病院の多くが問診票でリスクが高いと判断すれば、積極的にヨード検査をしている」と話す。
ヨード検査は口の中が苦くなったり、気分が悪くなったりする人がいるのが難点だ。虎の門病院やがん研有明病院などは、「狭帯域光」と呼ばれる特殊な光を当てる検査も併用している。気になる人は病院に確認してみよう。このほか、がん研有明病院では人工知能(AI)で前がん病変とがんを見つける研究を進めている。
前がん病変が見つかったら、どうすればよいか。布袋屋部長は「発がんリスクが高くなったものは病気と扱い、定期的な検査などで丁寧に見ていくことが必要」と話す。予防的に内視鏡手術で切除することもあり、その場合は1週間程度の入院になる。
痛みも熱もなく、軽いものは病気と見なされない。経過観察がほとんどだ。医師が存在を告げないこともある。アルコールやたばこをやめるのが最善の対処法だ。
定期的に検査を受け、生活を律して気長に付き合っていくしかない。「お酒を16年半やめると飲まない人並みに発がんリスクが低下するという報告もある。長い時間をかければ、前がん病変は少しずつ減っていく可能性がある」と由雄副部長は話す。
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がん保険の給付対象に
前がん病変は医療保険やがん保険の給付対象になるのだろうか。医療保険の場合は入院や通院が生じれば、給付金がもらえる。前がん病変の場合も適用される。
がん保険はかつて、がんと明確に診断されなければ給付金がもらえなかった。だが、近年は前がん病変が給付対象になることがある。「上皮内新生物」が見つかった段階で給付する商品が出ており、手術や入院を伴わなくても「初回診断一時金」などの名目でもらえる場合もある。
金額はさまざま。一時金ががんの半額や10分の1という例もある。オリックス生命保険の「がん保険ビリーブ」のように、がんと同額の商品もある。
メットライフ生命保険の「ガン保険 ガードエックス(充実タイプ)」は前がん病変で2年に1回を上限に何度も一時金が給付される。詳しい条件は各保険会社に確認しよう。
(堀聡)
[日本経済新聞夕刊2020年5月13日付]
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