待てない診療、オンラインなら 緊急緩和で受けやすく

オンライン診療に初めて診療報酬が設定され、医療の表舞台に現れたのは18年4月だ。保険診療として実施できるようになったことで関心を持つ医療関係者は増えた。

ただし事前に診療計画を作成することや3カ月以上対面診療を続けていることなど、制約が多い。保険の対象となる疾患は糖尿病など一部の慢性疾患に限られ、その点数も対面診療に比べて半分以下の水準だ。

そもそも厚生労働省や医師会などは、オンライン診療で医療の質を担保できるかどうかのエビデンスが不足しているという認識で、運用に慎重だった。結果として、オンライン診療を保険診療として実施する医療機関はこれまで少なかった。

新型コロナの感染拡大を受け、厚生労働省は2月以降にオンライン診療の規制を大幅に緩和した。具体的には、疾患の種類によらず医師の判断でオンライン診療を実施できるようにした。事前の診療計画作成は不要で初診にも使える。オンライン診療に対応した初診料や再診料も設定され、医療機関にとっては収益面のマイナスも抑えられる。

これを受けオンライン診療を導入する医療機関は急増している。「導入に関する1日当たりの問い合わせ件数が従来の15倍に増えた」(マイシン)と話す。

今回、規制緩和されたオンライン診療の枠組みの一つとして、患者が薬局に足を運ばずに処方薬を受け取れるようにもなった。医療機関が処方箋をFAXで調剤薬局に送信。薬局が薬を患者宅に送り、薬剤師がオンラインで服薬を指導することが認められた。

初診は来院で

保険の利かない自由診療では今回の規制緩和前から柔軟な運用をしている。AGAヘアクリニック(東京・千代田)は男性の脱毛症などに対する自由診療にオンライン診療を取り入れている。水島豪太院長は「日常生活の中での症状を確認できるのがオンライン診療の強み」と語る。

初診は来院してもらい、患者の希望に応じて再診以降にオンライン診療を使う。患者にスマホのカメラで頭部を撮影してもらい、医師がその画像をパソコンで見ながら診察する形だ。

同院で治療を受けている埼玉県在住の30代男性は、勤務先の昼休みなどを利用してオンラインで受診してきた。「通院には往復3時間以上かかる。今は新型コロナの影響で長時間の移動は避けたいので、オンライン診療を利用していてよかった」と話す。

厚労省は現在のオンライン診療の規制緩和は「新型コロナの感染が収束するまで」と説明する。中長期的な制度改定につながるかどうかは、治療上の有用性を医師や患者がどのくらい実感できるかや安全性を担保できるかどうか次第だ。規制緩和をきっかけに「オンライン診療の利用が適切な形で広がることに期待したい」と山下氏は話している。

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医師と患者の協力カギ 対面にも利点多く

オンライン診療の利用に期待が高まる中、その分適切な運用が求められる。初診時や定期的な対面診療の必要性を訴える医師など関係者は多い。

AGAヘアクリニックの水島院長は「オンライン診療は患者との信頼関係が土台になる。対面診療での関係構築を大切にしている」と話す。

ココロモクリニック神田(東京・千代田)の山下佑介院長はオンラオイン診療と対面診療との特長の違いを指摘する。同氏はうつ病や統合失調症など精神疾患の治療にオンライン診療を取り入れている。

精神疾患では定期的な通院が難しい患者も少なくない。オンラインという手段で受診のハードルを下げられる利点は大きいという。ただし「患者の外見や歩き方、返事の仕方などに含まれる情報量はかなり多く、対面診療の重要性は高い」(山下氏)。

来院が必要なケースを安易にオンラインで済ませることは、病気の見逃しや症状の悪化につながりかねない。医療の質を担保できるようなオンライン診療の利用の仕方を、医師と患者の双方が考える必要がありそうだ。

(大下淳一)

[日本経済新聞夕刊2020年5月11日付]

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