
慢性的な腰痛や下腹が出るぽっこりおなか。これらは「反り腰」のせいかもしれない。女性に多い、骨盤が前傾した姿勢によるもので、体の不調やスタイルの崩れを引き起こす。原因を押さえ適切に対処したい。
人間の本来の正しい姿勢は、骨盤が真っすぐに立ち、背骨がゆるやかなS字カーブを描いている状態だ。これに対し、骨盤が前に傾き、背骨が腰のあたりから極端におなか側にカーブしている異常な状態を「反り腰」という。下腹部が前に押し出され、お尻は後ろに突き出した、いわゆる出っ尻になるのも特徴だ。
反り腰になると何が問題なのか。北里大学医療衛生学部の高平尚伸教授は「反った状態は腰に大きな負担がかかり、慢性的な腰痛につながる」と指摘する。椎間板ヘルニアなどを発症することもある。
下腹が前に出る姿勢なので、太っていなくても、ぽっこりおなかに悩まされる。スタイルの問題だけではない。からだリフォームコンサルタントの萩原健史氏は「骨盤が前傾すると股関節の前面が詰まり血流が悪くなって、足の冷えやむくみを招く」と語る。
自分が反り腰かどうか確かめるには、壁に頭、背中、お尻をぴったりくっつけるように立ってみる。壁と腰の間にこぶしがすっぽり入るようなら、反り腰の可能性が高い。
反り腰は、加齢や運動不足により腹筋の力が低下して起こる。腹筋が弱いと骨盤は正しい位置を保てずに前傾しがち。そうすると上半身が前に倒れないよう、無意識に腰を反るようになる。
この姿勢が女性に多いのは、男性と比べ一般的に筋力が弱いためだ。萩原氏は、女性がヒール靴を履くことも原因の一つと指摘する。「つま先立ちで坂道を下る状態なので、前のめりになるのを戻そうとして腰が反る」
猫背の人が無理によい姿勢をつくろうとして反り腰になることも多い。「腰だけぐっと反ると、一見姿勢がよく見えるが要注意」(萩原氏)
改善策は、衰えている筋肉を鍛え、凝り固まっている筋肉を伸ばすこと。反り腰の姿勢を長く続けると、おなかやお尻まわり、太もも裏の筋肉が弱くなる。一方、股関節の前面や太もも前にある筋肉、背筋は凝り固まる。高平教授は「前者には筋トレ、後者にはストレッチが有効」と助言。それぞれに適切なアプローチをすることで、「筋肉のアンバランスな状態が解消され、姿勢を正せる」という。
筋トレとして高平教授がまず勧めるのは、壁際でのスクワットだ。前に壁があると、膝がつま先より前に出ず、正しい姿勢で屈伸できる。足を肩幅より少し広げ、お尻を後ろに突き出しながら、ゆっくりとしゃがんでいく。ある程度の深さまでしゃがんだら元の姿勢に戻る。これを1日5回3セット。また腹筋やその内側の筋肉を鍛えるには、意識的におなかをへこませる動作を心がけるとよい。
ストレッチで萩原氏が提唱するのは、体育座りをし、手で足裏をつかんで行う方法だ。胸を膝につけたまま、かかとを押し出すように、少しずつ膝を伸ばしていく。頭を下げると、腰回りを中心に背筋がぐぐーっと伸びる。「手で足裏に圧力を加えながら30秒程度伸ばして。凝りのリセットが目的なので、夜寝る前に行うのが効果的」(萩原氏)
長時間デスクワークをする人は、骨盤を立てる座り方も心がけたい。「前かがみのまま、お尻を椅子の背もたれに当たるまで引く。そのまま上体を起こす」(高平教授)。お尻の真下にある座骨で座る意識を持つとよい。
新型コロナウイルス対策による在宅勤務で運動不足が気になる人も多い。姿勢の見直しと、簡単エクササイズで反り腰を改善しよう。
(ライター 松田亜希子)
[NIKKEIプラス1 2020年5月9日付]