深みがあってかどがない 長野・佐久の安養寺ラーメン
長野県の特産品の一つに味噌がある。国内生産量のほぼ半分を占め、文字通り県を代表する商品だ。その発祥地とされるのが県東部の佐久市にある古刹、安養寺。市内にはその名を冠した「安養寺みそ」を使ったラーメンを提供する店が10店以上ある。新型コロナウイルスの感染拡大で営業時間の短縮といった制約を受けながらも、それぞれが店の特色を競い合っている。
「深みがあって、かどがない。上品さを感じる」。信州佐久安養寺ら~めん会の会長で「麺匠佐蔵」の店主、金子祐一さんは安養寺みその特徴をこう表現する。店で出している「安養寺らぅめん」はスープに少しとろみがあり、甘さも感じる。黄色く太めの麺は食べ応えも十分だ。以前は豚骨が売りだったが、今はこちらが看板になっている。
安養寺は信濃国筑摩郡出身の高僧、覚心和尚の遺志で開かれた。鎌倉時代に覚心和尚は宋に渡って味噌造りを学び、帰国後に製法を広めたとされる。第87代住職の田嶋英俊さんが寺の歴史を振り返り、味噌造りを思い立ったのは30年ほど前のこと。寺の周りの畑で育てた大豆で味噌を造ったのが始まりという。
「安養寺ら~めん」を名乗るには、味噌だれに安養寺みそを80%以上使うという決まりがある。これをクリアすれば後は自由に工夫できる。佐蔵は「8割が安養寺みそ、2割は西京味噌」(金子さん)。市内では店の持ち味を生かした様々な味が楽しめる。
「麺処八峰」の「安養寺味噌担々麺」はゴマと味噌の風味が食欲をそそる。「担々麺を売りにしてきた店」(店主の中嶋洋さん)なので、担々麺と安養寺みそを組み合わせた。スープは初めはピリッとするがトッピングの肉味噌を混ぜるとマイルドになる。モヤシにキャベツ、ニンジン、ネギと野菜もたっぷりだ。
豚骨と鶏のダブルスープが看板の「とんちき麺」で提供する「安養寺みそ」は見た目と味のギャップに驚く。スープには背脂が浮いているが、くどさは無く、あっさりとした味わいだ。味噌の香りはするが、いわゆる味噌ラーメンの濃さはない。時期によっては安養寺みその注文が「全体の3割程度になることもある」(店主の柳澤知宏さん)。
同じ味噌を使いながら、店ごとに違った味を楽しめる。新型コロナの感染拡大が終息したら、店を巡ってそれぞれの味を楽しんでみてはいかがだろうか。
ラーメン店が使っている安養寺みその生産を一手に担っているのが、地元の老舗味噌蔵、和泉屋商店(長野県佐久市)だ。和泉屋商店では全て国産原材料で味噌を醸造しているが、なかでも安養寺みそは「佐久平産の大豆だけを使用している」(阿部博隆代表)のが特徴だ。
味噌は一般的に半年から1年ほど熟成させるが、安養寺みそは2~3年かけて「コクがあり、香りも良い味噌ができあがる」(阿部代表)。ラーメン店に卸している味噌と同じものを店頭でも販売している。
(長野支局長 塚越慎哉)
[日本経済新聞夕刊2020年5月7日付]
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