待たせず問診、検査漏れ防ぐ ITで医師ら働き方改革

大同病院(名古屋市)では抗がん剤治療を行う患者のうち、重い肝炎の危険がある肝炎ウイルス感染者については、主治医と薬剤師に注意喚起するシステムを作った。抗がん剤投与の前日時点でウイルス量検査の指示が出ていない患者を自動で抽出する。これまではカルテを1件ずつ確認し、付箋を貼るなどしていたが見落とすリスクがあった。

運営する医療法人宏潤会の宇野雄祐理事長は「見落としがないか繰り返し確認するストレスから解放され、やるべき医療に注力できる。エラーを防ぎ、質向上につなげたい」と話す。

医師にとって、特に負担感が大きいのが緊急時の呼び出し。自宅で待機し必要に応じて出勤する医師向けに、遠隔で検査情報などを共有できる独自のシステムを導入したのは南多摩病院(東京都八王子市)。自宅待機の医師が、タブレットで患者の病状や検査結果を確認できる。その場で「緊急性がない」と判断できれば、電話の指示だけで済み、出勤減少につながった。

日本脳神経外科学会はICTスタートアップのアルム(東京・渋谷)が開発した遠隔診断アプリ「Join」などを使い、医師が遠隔で相談を受けている22施設を調査。55%が脳梗塞患者を巡る緊急呼び出しが減ったと回答した。最先端の技術が浸透すれば医療現場の働き方が変わりそうだ。

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月80時間の残業条件 医師も24年度から

時間外労働の上限を月80時間までとする働き方改革関連法が2019年4月に施行された。ただ医療提供体制への影響が大きいため、医師への適用は5年猶予し、24年4月から対象となる。地域医療の維持に不可欠な病院の医師や研修医は月155時間まで時間外労働を認める特例も設けた。

特例を適用する場合も、連続勤務は28時間までで、終業から次の勤務まで9時間のインターバル(休息)を置くなどの健康確保の措置を義務付ける。特例は35年度末の廃止が目標だ。

現場の医療関係者の不安や不満は根強い。医師不足の中で長時間労働によって地域医療を担ってきた病院からは「診療体制を維持できない」との声が上がる。大学病院などの勤務医が別の病院や診療所でアルバイトをして収入を確保する慣習も影響を受ける可能性がある。アルバイトなどの副業も時間外規制の対象になるためだ。診療縮小や病院の再編が進むとの見方もある。

医師法は診療を求められた際に正当な理由なしに拒否できない「応召義務」を規定するなど医師には高度な社会的責務が期待されている。一方で労災認定される「過労死ライン」(月80時間超)の2倍近い時間外労働を認める特例には、なお不満がくすぶる。医師の労働環境を改善しながら、診療体制を守るには、地方や診療科ごとの医師偏在の解消などが求められる。

(満武里奈)

[日本経済新聞朝刊2020年4月27日付]

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