5カ月で体力が2割UP 「インターバル速歩」に挑戦
健康のために歩く人は多いだろう。記者(61)も日常生活で歩くようにしているが、体力が向上した実感がない。「インターバル速歩」と呼ばれるウオーキング法が効果的と聞き、専門家に指導してもらうことにした。
新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で自宅で過ごす時間が長くなり、体力が低下しがち。長野県松本市の信州大学でインターバル速歩を提唱する特任教授、能勢博さんを訪ねた。
インターバル速歩とは、本人がややきついと感じる早歩きと、ゆっくり歩きを3分間ずつ交互に繰り返すウオーキング法だ。1日5セットで合計30分、週4日以上やると、「5カ月間で体力が最大20%向上する」(能勢さん)。
基本はこうだ。(1)視線は25メートル程度前方に向け、背筋を伸ばした姿勢を保つ(2)足の踏み出しはできるだけ大股になるようにし、かかとから着地する(3)歩いているときに体の軸が回転しないように、腕を直角に曲げ前後に大きく振る。
背筋を伸ばすことで、大股で歩いたときの前方への体重移動が容易になる。大股で歩くと尻から下肢に至るまで多くの筋肉を使う。左足を大きく前に踏み出し、右足が後ろに残った場合、それとは逆に左腕を後ろ、右腕を前に振ることで、腰に負担をかけることなく、安定して大股で歩くことができる。
「インターバル速歩のフォームは、ややきついと感じる速歩きを長時間、安全に実施するための工夫」と能勢さんは話す。早歩きは「歩いていると息が弾み、動悸(どうき)がする程度」と能勢さん。なぜ3分なのかは「大部分の人がこれ以上は継続するのが困難と感じるから」(能勢さん)。理屈が分かったところで実践してみる。
初めは「3分なら、なんてことないかな」と思ったが、やってみると、予想外にきつい。普段、大股で歩くことはほとんどないからなおさらだ。3分で息が上がってしまった。「結構、きますね」と告げると、「そうでしょう」とあっさり返された。
次いで、ゆっくり歩きを3分。こちらは楽。「3分間の速歩の後に、ゆっくり歩きを挟むと、また速歩をしようという気分になる」と能勢さん。確かにそうだ。5セット、30分続けてみたら、筋肉がかなり鍛えられた感じがした。
筋力を維持するには歩くだけではだめなのか。「普通に歩いていても筋肉はほとんど増えません。漫然と歩いているだけでは、1日1万歩を実施してもほとんど効果はありません」。えっ!? よく聞く「1日1万歩が健康に良い」というのは誤りなのか?
もっとも、激しい運動をすると筋肉に大量の乳酸が出て、息切れが起きたり、筋肉痛になったりする。一方、ややきついインターバル速歩は「筋肉を傷めずに筋力をアップすることができる運動」(能勢さん)。筋肉の衰えを防ぐことができれば、体力が向上し、糖尿病や高血圧など生活習慣病の予防にもつながるという。
がぜんやる気が出てきたが、問題は1日30分の時間をどう確保するかだ。
能勢さんは「インターバル速歩は連続してやる必要はないんです」と話す。朝、昼、夕に分けてやってもいいし、速歩きとゆっくり歩きを3分間隔で繰り返さなくても、2分間隔、5分間隔と自分に合ったやり方で構わない。「要は速歩きの合計が1日15分になればいい」(能勢さん)。平日に時間が取れない場合は、週末にまとめて実施しても問題はないそうだ。
インターバル速歩は道具はいらず、自宅の近くなどで気軽にできる。気になるのは、5カ月間継続しなければ効果が出ないこと。色々な運動に挑戦したが、長続きしたためしがない。最大の課題だ。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で在宅勤務を導入する企業が増えている。もっとも一日中、こもりっぱなしでは気分も滅入る。風通しの良い公園や遊歩道などで周囲との距離を保ちながら、運動不足解消や気分転換を目的に始めてみてはどうだろうか。
◇ ◇ ◇
自治体も普及を後押し
健康寿命を延ばそうと、自治体もインターバル速歩の普及に取り組んでいる。秋田県由利本荘市はインストラクターなどが指導する「インターバル速歩講座」を年間10回程度、開いている。「インターバル速歩体育館開放日」も設け、講座受講者以外の市民にも広めている。
同市によると、インターバル速歩を実践した人から「体脂肪率が改善した」「下半身に筋肉がつき持久力が向上した」など効果を実感した声が寄せられているという。
(大橋正也)
[NIKKEIプラス1 2020年4月25日付]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。