SF・怪奇…アンソロジーが続々 編者の思いつむぐ

個人編集の日本文学全集やSF、怪奇という特定ジャンルの秀作を集めた選集など、注目のアンソロジーが相次ぎ刊行された。文学作品を選んでまとめる楽しさを編者たちに聞いた。

「日本文学全集」を個人編集した池澤夏樹さん(東京都渋谷区)

「『日本文学全集』を編集するつもりは全くなかった。東日本大震災の被災地に通ううち、この国土で暮らす人たちに興味がわいた。その精神史を考える上で一番いいのは文学全集を編むことだと考えました」

河出書房新社の「世界文学全集」(全30巻、2007~11年刊)に続き、「日本文学全集」を個人編集した作家の池澤夏樹は振り返る。自ら現代語訳した「古事記」を14年に刊行してスタート、今年2月に出た角田光代訳「源氏物語」の下巻で全30巻が完結した。

「読者は楽しみにしてくれていると思うので、別格である『源氏物語』以外はほぼ月一冊出すように心がけた。読みの勘所を示す『解説』を毎巻書くのは大変でしたが」。古典の現代語訳は、作品にふさわしい文体を持つ作家や詩人を選んだ。「訳者の頑張りもあって、ぼくは毎回満足し自画自賛していた」

編者に求められるのは「文学観と幅広い読み」という。「大伴家持、藤原定家らは自作をしながら歌集を編み、文学の方向性を示した。偉大な先人と比べるのはおこがましいが、ぼくも近代以降は『モダニズム』という視点で作品を選んだ。それは古典を踏まえつつも斬新な手法で書いた作品ということです」

「古事記」を現代語訳した経験は本紙連載小説「ワカタケル」に生きた。「全集を作るのも文学的な営みではあるが、今は小説が書きたい」。様々な作品に触れたことが創作意欲を刺激しているようだ。

日下三蔵さん

ミステリー、SF評論家の日下三蔵は08~19年に評論家、翻訳家の大森望と、毎巻十数点の中短編を収める「年刊日本SF傑作選」(全12巻、創元SF文庫)の編者を務めた。同シリーズは今年2月、日本SF大賞特別賞に選ばれた。

「伊藤計劃(けいかく)さん、円城塔さんらの登場もあり、SFは誰の目にも元気になっている。私はいかに読者を導くかという構成面を重視して、その年の優れた作品を選ぶように心がけました」と日下は話す。

出版社勤務を経てフリー編集者となり、山田風太郎はじめ昭和のミステリー、SF作家の作品集の編集を約400冊手がけてきた。「(数学者・ミステリー作家の)天城一さんの作品を集め、初の単著を出せたのも印象深い」。アンソロジーは「中継地点」と意義づけ、「20年先の読者が再び見つけてくれる」と期待する。

東雅夫さん

編者を意味するアンソロジストという肩書を1990年代から使う文芸評論家の東雅夫。雑誌「幻想文学」「幽」の編集長を歴任した経験を生かし、怪奇、ホラー小説のアンソロジーを約150冊編んできた。

19年に刊行した「平成怪奇小説傑作集」(全3巻、創元推理文庫)は名作短編を年代順に並べたもので、堅調な売れ行きを示している。「平成の怪奇小説は(日本的な伝統を踏まえた)ホラージャパネスクの盛り上がりで幕を開けた。東日本大震災で試練のときを迎えるが、死者と生者を結ぶ鎮魂の文学と認められた。文体を重視して幅広い作品を選んだが、ラインアップからはそうした流れが改めて感じられた」と東。

アンソロジーを編むきっかけは「自分がこんな本を読んでみたい」との思いという。「文豪怪談傑作選」(ちくま文庫)は、文豪の「怪談」だけの本があったら便利だろうと考えたもので、シリーズ化された。

「テーマを決めると、以前読んだ作品の記憶がよみがえり、古書も自然に集まる」。アンソロジーには作家や作品に対する編者の深い愛情が込められている。

(編集委員 中野稔)

[日本経済新聞夕刊2020年4月21日付]

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