天然由来の「クラフトコーラ」 飲み進めると味が変化
コーラはいつでもどこでも買える――。そんな既成概念を覆す手作り感たっぷりの「クラフトコーラ」が登場し、好奇心旺盛な消費者を刺激している。クラフトビールに続き、コーラにも人気の波が押し寄せるのか。
東京・高田馬場にある伊良(いよし)コーラ総本店。自社工房で作るコーラが家族連れや中高年など幅広い世代の客に好評だ。人工着色料や甘味料などを一切使わない。「10種類以上のスパイスやかんきつ類を材料に、子どもでも安心して飲める」(同店)。炭酸で薄めたドリンクのほか原液も販売する。
コーラ好きの記者(28)も飲んでみた。最初はかんきつ系のフルーティーな甘さとスパイスのほのかな刺激が口いっぱいに広がる。しつこさはない。ところが、飲み進めていくうちに、今度は甘さよりもスパイスのツンとした爽快感が強く感じられるようになる。
こうした「味変」も仕掛けの一つ。小林隆英社長は「工場生産のコーラにはないコクと奥深さを出した。味や風味の変化も堪能していただけたら」と強調する。
価格は通常のコーラの約5倍と安くないが、愛飲家は着実に増えている。会社員の木部聖也さん(27)は3度目の購入。「カフェでおいしいコーヒーを飲むように、ちょっとぜいたくな感覚でクラフトコーラを楽しんでいる」と話す。
小林社長は大学生だった10年ほど前から、世界各地のコーラを飲み歩き、コーラの魅力に取りつかれた。メキシコの高地で片頭痛を治すためにサトウキビのコーラを飲む体験などをしたという。2018年夏に創業。手ごたえをつかみ、今後は渋谷や原宿など情報感度の高い若者の集まる町にも出店する計画だ。
手軽な飲み物のイメージが強いコーラだが、1886年に初めて作ったのは米国の薬剤師だ。カフェインを含むコーラの実を材料にしたほろ苦いエキスをシロップで甘く味付け。薬用として飲まれるのを想定し、薬局やカウンター形式の喫茶店で売り出した。コカ・コーラの始まりと言われる。その後、ボトルや缶に詰めた流通・販売が定着し、コーラという飲料が世界に広まった。
クラフトコーラに正確な定義はない。ただ、東京の「ともコーラ」を販売するTOMO's CRAFTによると、(1)天然由来の材料だけ使用(2)少量生産でロットごとに個性を出しやすい、などの特徴があるという。
大手飲料会社のコーラは現在、コーラの実を使っていないのに対して、伊良コーラはコーラの実を使用する。材料で原点に立ち返り、希少性や生産者の思いなどを重視した点が魅力といえそうだ。
地元の食材などを生かしたクラフトコーラも地方で登場している。「熊本クラフトコーラ」は人気のかんきつ類「不知火(しらぬい)」などを材料に使用。「果実の甘味とスパイスのバランスがよく、子どもでも飲みやすい」(コーラを置く同県内のハンバーガーショップ、ザ・ローカルバーガー)。北海道十勝地方の「十勝夕暮れコーラ」は特産品のてんさい糖を使い、上品な甘味が特徴だ。
地域の宣伝にも一役買う。熊本クラフトコーラは、東京・杉並で87年続く銭湯「小杉湯」に隣接する施設で提供されている。牛乳で割った「ミルコ」はチャイに似た味わい。20~40代の若者がよく注文し、熊本を話題に会話が弾むこともあるという。
日本には「ご当地コーラ」もあった。静岡のお茶や金沢のカレー、沖縄・伊江島の黒糖など地元のグルメや特産品にちなんだ味で、お土産として人気を集めてきた。
希少性の高いクラフトコーラが広まれば、全国を飲み歩くファンが増えるかもしれない。「全国コーラ博」なるイベントが開かれる日も遠くない?
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特保やエナジー飲料、大手も新商品
クラフト飲料で思い浮かぶのが近年のクラフトビールブームだ。東京商工リサーチによると19年1~8月の主な地ビールメーカーの出荷量は前年比4%増。最近ではクラフトジンも人気化しており、日本各地の酒造会社などが製造をしている。SNSなどで個人の情報発信が活発になり、嗜好の多様化が加速したこともブームの背景に挙げられる。クラフトコーラも同じように人気が高まるかもしれない。
大手もニーズの多様化に対応する。コカ・コーラは17年に特定保健用食品のコーラ=写真は日本コカ・コーラ提供=を発売して健康志向に応えつつ、昨年夏にはエナジードリンクのコーラを発売。会社員や受験生に人気だ。
大手と中小が切磋琢磨(せっさたくま)して商品開発競争が進めば、様々な味を楽しめる機会が増えるかもしれない。
(荒牧寛人)
[NIKKEIプラス1 2020年4月18日付]
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