さっぱりでも厳選された深いうまみ 函館の塩ラーメン

北海道函館市の塩ラーメンはさっぱりしていながら、深い味わいが特徴(麺厨房あじさい本店)
北海道函館市の塩ラーメンはさっぱりしていながら、深い味わいが特徴(麺厨房あじさい本店)

北海道で有名なご当地ラーメンと言えば、札幌市は味噌、旭川市は濃厚醤油(しょうゆ)、釧路市はあっさり醤油、そして函館市は塩だ。半透明のスープは見た目がさっぱりとしているが、鶏ガラや魚介類、昆布、香味野菜などで取ったダシと、各店が厳選した塩が生み出す深いうまみが中細麺によくなじむ。

函館の中心市街地は路面電車が走る市電通りに沿って東西に長く延びる。JR函館駅周辺と五稜郭地区の二大繁華街のほか、観光客に人気が高い西部の旧市街やベイエリアにはラーメン店が多い。

「麺厨房あじさい」は市内各所のほか、札幌市や横浜市にも出店する有名チェーン店だ。味噌味や醤油味もあるが、「お客さんの半分以上は塩を頼む」(本店の辻豊生店長)。ダシは鶏や豚のほか、昆布、煮干し、ホタテ貝柱などで取り、岩塩で味を調える。

函館のラーメンはなぜ塩が原点なのか。函館製麺組合理事長で日の出製麺社長の宮川照平さんは「歴史と風土の両方が理由」と解説する。

明治17年(1884年)の函館の新聞に中華料理店「養和軒」が「南京そば」の広告を出した記録が残っている。レシピは不明だが、宮川さんは「開港地として栄えていた函館にやって来た華僑が濁りのない清湯(ちんたん)スープで麺料理を作り、函館塩ラーメンの源流になった可能性が高い」と推測する。

函館は海産物が豊富で、ダシ用の昆布などが入手しやすい。さらに北海道内では冬の寒さや降雪が比較的厳しくないため、体を温める濃い味噌ラーメンが好まれた札幌圏などと異なる塩ラーメン中心の文化が発達したようだ。日清食品が1996年に袋入りの即席麺「函館塩風味」を売り出し、知名度が全国区になった。

「ラーメンmaido」の「黒しおラーメン」はイカスミと昆布の粉で黒色を出す

函館でもラーメン店の競争は激しく、塩ラーメンも進化している。函館市街東部にある湯の川温泉の近くで2013年に開業した「ラーメンmaido(まいど)」は「黒しおラーメン」が人気だ。

黒色はイカスミと昆布の粉で出しており、見た目が似ている富山市の「富山ブラック」ほどしょっぱくはない。スープはダシ素材を弱火で10時間ほど煮出し、岩塩と海塩を加え、やさしい味わいに仕上げる。函館のラーメン店に多いトッピングである麩(ふ)がスープを吸って、うまみが増す。麺は小麦のほか、米のものも選べる。

イカスミで黒く仕上げた塩ラーメンは、ベイエリアの「函館塩ラーメン専門店 えん楽」にもある。函館名産のガゴメ昆布など黒々とした海藻がのった迫力の一品だ。

函館ではかつて「塩ラーメンサミット」や「南京そば」の復刻プロジェクトを開いたこともある。最近は塩以外のラーメン店も増えているが、宮川さんは「塩ラーメンの本場らしいイベントをまたやりたい」と意欲を示す。

<マメ知識>郊外、こってり系も多く
函館製麺組合の宮川照平理事長によると、函館市内のラーメン店数を数年前に調べたところ、ラーメンも出す中華料理店やそば店なども含め100店以上あった。代表格は塩だが、地元消費者や観光客の好みは多様化しており、多くの店は醤油や味噌なども選べるようにしている。
函館郊外から隣の北斗市や七飯町にかけての地域は、こってりした味付けのラーメン店が目立つ。函館市西部の「ポールスターショッピングセンター」では北海道内外のラーメン店が入れ替わり出店している。

(函館支局長 伊藤政光)

[日本経済新聞夕刊2020年4月16日付]

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