朝ドラは週5話、歌舞伎に休演日 働き方改革の波
今春、NHK「朝ドラ」で物語の進行が週5話分に減り、歌舞伎にも休演日ができた。「働き方改革」のためだ。新型コロナウイルスへの対応もあり、昭和からの慣習が見直しを迫られている。
3月30日に放送が始まったNHKの連続テレビ小説「エール」。作曲家、古関裕而とその妻をモデルにした物語だが、毎週土曜の放送にだけ、お笑いコンビ、バナナマンの日村勇紀が登場することに驚いた視聴者もいるだろう。
4Kで負担増も
この春から「朝ドラ」の土曜が、日村のナビゲートによる総集編のような内容になった。放送は週6回だが、物語が進むのは月曜から金曜まで5話分。「朝ドラ」が週5話になるのは、1961年の第一作「娘と私」以来だ。
背景にはNHKが近年、進めてきた働き方改革がある。「かつては、朝ドラといえば早朝から深夜までの作業が当たり前だったが、もうそれはできない」と「エール」の土屋勝裕制作統括は話す。
しかも「エール」は朝ドラ初の4K制作番組だ。高画質で隅々までクリアに映るため、美術や編集作業にもこれまで以上の手間と神経を使う。撮影期間を従来の朝ドラより1カ月半ほど延ばして1年ほどにしたが、それでも週1話分、物語を減らすのはやむなしだったのだ。
「その分、隅々まで作り込んだ部屋のセットなど、映像に注目していただきたい」と土屋制作統括。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大で、安全確保のために収録を一時中止する事態も起きている。働き方改革と感染症対策をどう両立させるか、手探りが続く。
一方、歌舞伎界ではひと月に1日「休演日」が設けられた。新型コロナの影響で公演中止が続いている状態ではあるが、4月公演から、これまで「昼夜2部制、25日間通し」で続けてきた興行スタイルを変え、中ごろに1日休みを入れることになっていた。
仕事の交代難しく
「松竹の社員や俳優だけでなく、歌舞伎を支えるたくさんの関連会社の社員を守る意味があります」。歌舞伎興行を担う松竹の中里毅・歌舞伎製作部長は説明する。
2019年春に働き方改革関連法が施行されたが、従来の興行形態では極端にいえば、俳優もスタッフも、公演中には病院に通うことさえ難しかった。
簡単に交代できる仕事ではないからだ。俳優はもちろん、かつらを結う床山や、衣装にも俳優ごとに専属のスタッフがいる場合が多い。さらに大道具、小道具、音響など歌舞伎専門のスタッフは大半が中小企業の社員で、従来のままの労働条件では「後継者が入ってこなくなる」と中里部長。
ところで、歌舞伎以外の現代演劇では、以前から1週間に1日程度の休演日があった。「25日間通し」は、いわば歌舞伎だけの慣習だったのだが、それはいつ始まったのか。
「松竹百年史」などの資料によれば、明治のころから、いくつかの演劇で昼夜2部制25日間興行が試されていた。歌舞伎でも昭和の初めに何度か2部制の記録がある。
本格化したのは第2次大戦後で、45年9月から、市川猿之助(初代猿翁)や初代中村吉右衛門らが、空襲で焼失した歌舞伎座(東京・中央)などの代わりに興行の中心を担った東京劇場(同)で、2部制を敢行。歌舞伎座が51年に再開場してからは昼夜2部制、25日間通しの興行が完全に定着した。
休みのない厳しい興行形態は「戦後の歌舞伎の復興のために、先人が頑張った結果、生まれたのだと思います」と松竹の松本宗大・演劇総務室長。興行形態が変わっても、昭和の先人の奮闘は、忘れないでおきたいという。
(編集委員 瀬崎久見子)
[日本経済新聞夕刊2020年4月14日付]
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