鮮魚バル 「宅飲み」向けにおかずセットをデリバリー
感染拡大が止まらない新型コロナウイルスが、外食産業に大打撃を与えている。日ごろ取材している数人の飲食店経営者に話を聞くと、どこも深刻な状況だった。
そんななか、新型コロナの影響に立ち向かう飲食店のひとつが、都内と川崎市で鮮魚バル業態の「サカナバル」などを展開するアイロム(東京・渋谷)だ。
同社のサカナバルは、日本各地の漁港から取り寄せた鮮魚を多国籍なアレンジでメニュー化し、連日盛況だった。
だが東京都など自治体からの夜間の外出自粛要請の影響で、夜の客数は前年比70%近く減少し、苦境に立たされている。
そこで森山佳和社長は店舗営業を一時休止し、恵比寿店、六本木店、五反田店でのデリバリーとテークアウトサービスのみの営業に切り替えた。午前11時~午後8時の営業時間に注文を電話で受け付ける。配達エリアは各店から徒歩圏内が目安。なので、注文時に確認が必要となる。
デリバリーを開始するにあたり、ウーバーイーツなどの外部サービスを利用する選択肢もあったが、配送コストがかかるため、自店のスタッフを活用しコストを抑えた。
提供するメニューは「日替わり弁当」(税別800円)と「おかずセット」をそろえている。
日替わり弁当の一例を挙げると、函館産サクラマスのグリルが入ったり、大ぶりな海老のフライやホタルイカのマリネなど旬の食材がふんだんに使われたりしている。
おかずセットは1人前税別1500円に設定し、利用人数に合わせてボリュームアップできる。鮮魚バルらしい内容で"宅飲み"のお供にマッチしそうだ。
テークアウトサービスは、当初はSNS(交流サイト)での告知にとどめたが、初日から50個を超える注文が入った。スタッフの人員をやり繰りして、徒歩圏内への「出前」も始めた。
デリバリーには森山社長自らも加わる。「常連のお客様からの評判は上々。『外食はしたいが、人が集まる場所は気が進まない。テークアウトはありがたい』。そんな声をいただきました」と手応えを話す。
コロナ対策として、テークアウトに力を入れる飲食店は急増中。他店との違いを感じるのが、アイロムが取り組む製缶事業だ。
同社は、2019年に横浜市内で製缶工場を立ち上げた。「クラフトビールなどを店内で製造する飲食店が増えるなか、なにかギフトとして使えるアイテムを製品化したかった」と森山社長。
すでにグリーンカレーなど、5つを製品化している。どれもグループの総料理長が食材、スパイスから吟味した本格派で、一度食べたら忘れられない味だ。
なかでも「燻製(くんせい)ブリのボロネーゼ」(税別500円)は、そのままはもちろん、パスタソースにも、ピザの具材にも使えると好評でリピーターも多い。すでにOEM(相手先ブランドによる生産)として、大口注文の受注にも成功している。
缶詰は通販もしており、店頭での販売も開始している。「せっかく食べるならおいしい缶詰を」という「巣ごもり消費」にもマッチして、これからの販売が期待できる。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2020年4月10日付]
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