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大東建託の大木伸義さん

大東建託の大木伸義さん

大東建託はアパート建設・管理の最大手だ。1棟あたりの建築費は1億円と高額なだけに、契約に至るには地主との信頼関係が欠かせない。3半期連続で社長賞を受けた藤沢支店(神奈川県藤沢市)の大木伸義さん(30)。地主がアパート建築を検討するタイミングを逃さぬよう、常に高いアンテナを立てている。

大東建託が手がけるアパート事業は土地を持つ地主からアパートの建築を請け負い、完成した物件の管理・運営までを請け負う。投資に伴うリスクはあるが、地主はアパートを建てることで安定した家賃収入が得られ、資産評価の圧縮で相続税額が少なくなるといった利点がある。

アパート建築でトップの営業マンになるには、こうしたアパート運営の利点を地主に訴え続ければいいというわけではない。大木さんは何より「きっかけ」にこだわる。

そう、アパート建築には何らかのきっかけが必要なのだ。土地を持っていれば即、「やろう」とはならない。そこに営業の難しさがあり、大木さんが「常に感度の高いアンテナを張り巡らせている」と語る理由もある。

例をあげよう。大木さんは2016年10月に大東建託に入社して以来、ある二世帯住宅に足しげく通っていた。そんなとき、雑談中に「孫が生まれた」という話になり、大木さんは迷わず「お孫さんの世代まで財産を残したくないですか」と切り出した。

相続など資産形成にまつわる意識が高まるタイミングで、すかさず手を打つ。その後も、大東建託がアパート管理をしっかり請け負う点などを説明して18年5月、契約にこぎ着けた。通い続けた期間は1年半に及んだ。

大木さんは18年度下期から19年度上期、19年度下期と3半期連続で社長賞を受けている。19年4~12月の受注額は9億8000万円。営業マンの全国ランキングで10位に食い込む。

だが、そんな大木さんでも、とんとん拍子に契約に至るケースは少ないという。やはり重要なのは顧客を促すきっかけであり、そのきっかけを見逃さない情報感度が商談のカギを握る。

結婚や出産といった明るい話題がきっかけになることがあれば、死別などの悲しい出来事が契機になることもある。いずれにせよ、相手先の地主家族から信頼を得ていなければ、こうした情報を聞き出すことはできない。地主の人生の転機となるタイミングで信頼され、相談できる関係を築いていることが大切だ。

大木さんに苦しかった体験を尋ねてみた。返ってきたのは、ある5人家族との商談で、アパート建築の契約が直前に白紙になりかけた出来事だった。交渉は順調に進み、「いざ契約」というその日の午後に家を訪ねると、一家の父親が亡くなっていた。

その男性が亡くなる可能性を承知した上で、家族と将来の生活設計を共に考えてきたが、いざ父親が亡くなると遺族は葬儀や相続対応に追われ、アパート建築はいったん白紙に戻った。その後の話し合いで契約は成立したが、これ以降、「契約や納期は1日でも早い方がいい」というのが大木さんの信条になった。

大東建託に入社した1年目に3件の契約を取って新人賞をつかんだ。だが、その後は1年近く、1つの契約も取れない時期が続いた。飛び込み営業は空振りばかり。上司に相談したところ「君はお人よしだ。ならば、その持ち味を生かして顧客の懐に飛び込んではどうか」と言われた。

それ以降、地主の懐にいかに飛び込むかが、大木さんの営業テーマになった。それには相手の家庭事情から趣味嗜好まで、あらゆる情報に耳を澄ませる必要がある。時間と手間をかけ、労を惜しまず、顧客に寄り添うことで「商談のきっかけ」をつかむ。それが大木流の営業スタイルだ。

今の営業の仕事を通じて「人生で必要なスキルも身につけることができている」と大木さんは話す。相続などの税務や建築物に関する法規制などにも精通している。「自分の成長を実感できるのがうれしい」と言う。営業はおそらく彼の天職だ。

(亀井慶一)

おおき・のぶよし
物流系の人材派遣会社を経て2016年に大東建託に入社。神奈川県の藤沢支店でアパート建築の営業を担当し、18年度下期から3半期連続で社長賞を受賞。全国の営業ランキングでも上位の常連。
[日経産業新聞2020年4月9日付]

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