うつ発症後も職場復帰 休職を防ぐ支援プログラム

一度うつなどを発症して休職した人が、職場に復帰しても症状を再発して休職を繰り返すケースが問題になっている。うつと診断される患者は増え続けており、休職者の約半数が復職後に精神疾患を再発している。こうした状況を踏まえ、さまざまな復帰支援プログラムが登場している。

「会社に行こうとすると涙が止まらなくなる」「頭痛や吐き気がして出勤できない」――。日本産業カウンセラー協会が運営する厚生労働省の委託事業「こころの耳相談窓口」には連日、こんな声が電話やメールで寄せられる。協会では悩みを抱える本人やその家族、事業者などからの相談に応じている。

厚労省によると2017年にうつなどの気分障害と診断された患者数は127万6千人。15年前の1.8倍に増えた。労働政策研究・研修機構が企業を対象に実施した調査では、精神疾患を理由に休職した社員が復職後に再発した割合は53%と、身体疾患の再発(20.6%)を上回る。休職者の退職率も42.3%とがんとほぼ並ぶ水準で、支援体制の整備が課題だ。

「完治するまでに5~6年はかかる。復職はスタートにすぎず、その後のフォローアップが重要だ」。精神科クリニックでうつ病患者の治療にあたってきた一般社団法人、東京リワーク研究所(東京・港)の五十嵐良雄所長はこう話す。

同研究所ではうつ症状が回復傾向に向かい始めてからのリハビリテーションを「リワークプログラム」として提供する。生活リズムを整えたり、集団生活を送ったりすることで社会復帰を支え、なぜ休職に至ったのかの自己分析などもサポートする。

受講者の多くは半年~1年程度で職場に復帰。3年後に7割程度の人が働き続けているという。

「投薬治療などで症状が消え、会社に通えると判断したら『復職可』の診断書を出す医師も多い。だがその程度の回復では、結果的に再休職してしまう」。五十嵐所長はこう強調する。

近年は人手不足などで会社側の余裕もなくなり、「職場復帰時に求められる回復レベルが高くなっている」という。自己分析による徹底した原因究明とプログラムを経て復帰し、その後も精神科医との面談やフォローを何年も続けてようやく完治できるという。

ロディーナが運営するリワーク施設は喫茶店のような明るい雰囲気が特徴

「もともとうつの傾向があった人が、就職してからうつや適応障害を発症するケースも多い」。復職支援施設「リワークセンター」を展開するロディーナ(広島市)の門出兼一郎育成・研修グループマネージャーは利用者の傾向をこう分析する。30歳代が約3割と最も多いが、最近は20歳代の利用も増えているという。

東京リワーク研究所のプログラムが医療機関が関わる「医療リワーク」なのに対し、ロディーナのプログラムは「福祉リワーク」の位置づけ。施設の利用期間が最長2年間と長く、会社への復職だけでなく転職や就職以外の社会復帰も選択肢に含めている。

目標や回復状況に応じた通所プログラムをつくる。週1回の面談で回復状況を確認しながら自分のペースで進める。eラーニングやスポーツジムなども自由に利用できる。料金は1日あたり約870円。所得状況等に応じて上限額を設定している。1施設あたりの受け入れ人数は20人。全国7カ所にある施設を増やしていく考えで、5月には東京・日本橋にも開設する。

リワークプログラムには企業が実施する「職場リワーク」や障害者職業センターによる「職リハリワーク」などもある。一人ひとりにあったプログラムで職場復帰につなげたい。

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過労で精神障害 最多の労災申請

厚生労働省によると、過労や長時間労働など仕事が原因で精神疾患にかかり労災申請した件数は2018年度に1820件と、過去最多を更新した。業務による強い心理的負荷なども労災の認定要件に含まれる。

働き方改革関連法の施行により、残業時間の削減など企業の働き方の見直しが進んでいる。6月からは企業にパワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける法律も施行され、パワハラに関する相談窓口を設けることなどが求められる。

規制強化で事業主側の意識を高めるのに加え、疲労や負荷が蓄積して精神疾患になる手前で周囲が気づいて食い止められるかも重要だ。セミナーなどを通じた社員側の意識改革も求められる。

(佐藤初姫)

[日本経済新聞夕刊2020年4月8日付]

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