ぴあ社長「コロナ収束しても、業界立ち上がれない」
新型コロナウイルスの影響による公演中止で、3月下旬までに1750億円ものチケットが払い戻しになった(ぴあ総研調べ)。ぴあの矢内広社長にライブエンターテインメントへの影響などを聞いた。
金銭的な救済を
――ぴあ総研は5月末まで今の状態が続けば、チケットの払い戻しは3300億円にのぼると推計している。年間市場規模の37%に相当する大変な額だ。
「コンサート、演劇、ミュージカル、スポーツなどを合わせた数字だ。これらの事業者は自らの利益より公共を優先させ、自己犠牲を受け入れて公演を『自粛』した。新型コロナウイルスは、観光、運輸、飲食など多くの業界に打撃を与えているが、ライブエンタメ業界は、自らの事業を自らの決断で止めた」
「しかも事業者はきちんと公演の準備をしているため、リハーサルにかかったコストがある上、チケット代が入ってこないとなると収支がマイナスになる。この業界は、多くの中小事業者や個人事業主で成り立っている。今のままでは、ウイルスの問題が収束しても、業界が再び立ち上がれなくなる」
――公演再開のメドは立たないが、ライブや演劇などの舞台芸術が今後も存続するために、何が必要か。
「政府にはまず中小、個人の事業者への金銭的な救済をお願いしたい。具体的には、実害の5~8割を目安に補助していただきたい。そして、いずれ自粛が緩和されたときに、どういう条件なら公演ができるのか、ガイドラインを示してほしい。(会場内が静かな)クラシック音楽や、野外のコンサートと、狭い室内でのイベントを、一律にとらえるべきではないだろう」
「さらに、自粛が緩和されたら、お客さんがまた戻ってこられるような、具体的で分かりやすい策がほしい。例えば、1万円未満のチケットに2000円、それ以上のチケットには3000円の補助を出す、などの方法が考えられる」
会場確保難しく
――ライブエンタメの市場は近年拡大していた。
「市場規模はこの10年で1.8倍に膨らんだ。コンサートは2.5倍だ。そんな業界は他にない。内需の拡大にも貢献できる。また、古くから多くの人々を感動させてきた舞台芸術は、人類の大きな財産でもある。今はそれが失われる危機だ。これほどの公演中止や払い戻しは、私の事業の経験の中でも初めてだ」
――アーティストらへの支援のために、公演が中止になっても、チケットの払い戻しを受けない観客もいる。そうした人に対する税軽減の議論も生まれている。
「苦しい状況を知るファンの方による、一種のエールでしょうね。ライブエンタメは、一つのコンサートの舞台裏で数百人が動いていることもある。彼らが皆、今は厳しいのです」
「東京五輪・パラリンピックが来年に延期と発表された。ということは、ウイルスの脅威が減少しても、来年も会場が足りなくてライブが開けないかもしれない。厳しい状態は続く」
――1万~1万2000人を収容できるぴあのライブ施設「ぴあアリーナMM」(横浜市)が25日にオープンする予定だった。
「オープニングは人気デュオのゆずのコンサートで、予定通りの開催を望んでいたが、延期した。国や自治体が定める換気などの厳しいガイドラインはクリアしている。安全な施設をつくったつもりだが、残念だ。でも、ライブエンタメ業界全体の危機からみれば、小さなことです」
(聞き手は編集委員 瀬崎久見子)
[日本経済新聞夕刊2020年4月7日付]
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