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西松建設の平田和正さん

西松建設の平田和正さん

数あるゼネコン(総合建設会社)の中で、スーパーと名が付く巨大企業を相手に渡り合う準大手の営業マンがいる。西松建設の民間建築部門でトップクラスの営業成績を残す平田和正さん(48)だ。足を使って丁寧に顧客と向き合い、信頼関係を築き、大型案件の受注を重ねている。

「どうして東京のど真ん中に、うちのクレーンが立っていないんですか」。入社3年目で建築現場の事務を担当していた平田さん。飲み会で、上司に不満をぶつけた。

西松建設は土木工事に強みを持つゼネコンだ。当時の建築工事は「案件こそ多かったが、会社にとってシンボルになるような大型案件がなかった。それがもどかしくて」。それを聞いた上司は「それなら君が取ってくればいいじゃないか」と応じた。

それ以降、平田さんは営業への配属を希望し続けた。入社から約10年がたった32歳のとき、念願だった営業部門へ。担当はずっと民間建築工事だ。最近では、羽田空港第3ターミナル周辺の再開発プロジェクトなどに深く関わってきた。

ゼネコンの営業、とりわけ民間工事で重要なのは情報収集力だ。「デベロッパー(開発業者)など顧客の発注部門と常にやり取りしつつ、水面下で情報を集めながら、相手に『こんな感じで工事がしたい』と提案していく」

動き出しが遅ければ、それだけ受注は不利になる。逆に顧客が用地を取得した時点で開発情報をつかめていれば、受注争いでまず一歩、先んじることができる。

工事中も密に連絡

情報収集の基本は「常に会うこと」。平田さんはとにかく顧客のオフィスに足を運ぶ。たとえ別件の打ち合わせでも、帰り際に「会えませんか」と担当者に電話して、その後の状況を確認する。

部下に口酸っぱく話すのは「メールだけで済ませるな」。せめて電話で話すか、できれば会って話す。「相手と直接話さないと、水面下の情報は聞き出せない」からだ。

常に電話したり、会ったりできる関係性をつくる一番の方法は何か。平田さんは「愚直に仕事に取り組むこと」と言い切る。ゼネコンの営業は受注から竣工まで数年かかる案件が多い。受注を取って終わりではない。「工事中も絶えず顧客とコミュニケーションを取り、着実に仕事を進めれば、相手も認めてくれる」と信じる。

顧客が困っている時に一緒に汗をかけるか。思い出すのが入社から約10年担当した事務経験だ。現場の近隣住民への説明に汗をかく一方、「顧客が仕上がりに満足せず、引き渡しができるかでもめたこともあった」。様々な利害関係者の間に立って工事を円滑に進めていく。こうした経験はムダではなかった。

深い関係が築ければ、営業にとっての理想である「特命」、つまり顧客が自社を指名して工事を受注できるようにもなる。最初は相見積もりを取る数社の中の1社かもしれない。それでも顧客が何を求めているか、目指すコストにどう近づけるか、知恵を絞り受注をつかむ。この繰り返しで信頼関係が築ければ、次の特命受注が見えてくる。

社内調整も不可欠

ゼネコンの営業マンの評価指標は受注量と利益水準、そして特命案件をどれだけ受注してきたかだ。たとえ特命をつかんでも、利益面が苦しいこともある。だが「そこで逃げたら顧客は離れてしまう」。社内での折衝・調整能力も不可欠なスキルになる。

格上のスーパーゼネコンに対しては、平田さんも「見積額を下げるための知恵の出し方はすごい」と舌を巻く。それでも「対抗できるだけの経験値はこの10年で蓄積できた」と自信をみせる。

見積額が同水準なら「あとはその案件に限らず、どれだけ顧客に協力できるか」がカギを握る。顧客のデベロッパーが運営するビルがテナントを募集していれば、自社グループで入居することはできないかと素早く動く。

「顧客の信頼を積み重ねることができれば、それが最大の武器になる」と平田さんは話している。

(高尾泰朗)

ひらた・かずまさ
1994年西松建設入社。10年間、建築現場の事務を担った後、営業部門に異動。以後、関東の民間建築工事を担当する。現在は関東建築支社の営業2部長。
[日経産業新聞2020年4月6日付]

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