濃厚アイスワイン ハーフボトル、ドイツで4100円
金色に輝くとろりとした液体に、香ばしい香りと濃厚な甘い味わい――。ドイツ発祥の高級ワイン「アイスワイン」が危機にひんしている。自然に凍ったブドウを、そのまま絞っているが、地球温暖化の影響で生産が難しくなっているためだ。
ほかのワインと同様に生産者や生産年によって価格には幅があるが、2019年にドイツで最も影響力のある国際ワインコンクールの一つ「ムンドゥス・ヴィニ」で最優秀賞に輝いた「2018ベッカーアイスワイン ブラウアージルバーナ」はハーフボトル(375ミリリットル)で34.9ユーロ(約4100円)だった。
甘口ワインが得意という生産者のマルコ・W・ベッカーさんは「アイスワインは自然の気まぐれの贈り物。年間のワイン生産のハイライトだ」と話す。
氷点下7度以下の霜の降りた冬の早朝に、手作業で凍ったブドウを収穫し、そのまま圧搾する。氷点の違いでブドウの水分は凍ったまま、甘みを含むエキスだけが流れてくる。このため非常に甘い果汁を取り出すことができる。ブドウ一房から採れる果汁はティースプーン1杯とされる。
そんな貴重なアイスワインだが、ベッカーさんのワイナリーでは19~20年の冬は生産できなかった。気温が下がる時期が遅く、夏は猛暑で早く熟し、寒い時期までブドウが健康な状態を維持できなかったという。
近年は北緯50度前後のドイツでも夏の気温は40度を超える日もあり、冬もかつてほど厳しさはない。ベッカーさんは「今後は10年に1回しかアイスワインをつくれないかもしれない」と憂う。
ドイツワイン協会(DWI)は3月、19年ヴィンテージ(19年夏~20年冬に収穫)はドイツで初めてアイスワイン用ブドウを収穫できなかったと発表。その後、発表を撤回したが、業界の焦りを物語る。
収穫できない可能性があることで生産者はリスクを取らない悪循環が既に起きているという。DWIのエルンスト・ブッシャー氏は「もし暖冬が数年続けば、ただでさえ貴重なドイツのアイスワインは手の届かないものになってしまう」と指摘する。
(フランクフルト=深尾幸生)
[日経MJ 2020年4月6日付]
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