米国映画、アジア系俳優の主役続々 観客の好み多様化
アジア系俳優を主役に据える米国映画が増えてきた。人種などの多様性が求められる中、登場機会が少なかったアジア系の物語が新鮮に映るようだ。アジアでの市場拡大という背景もある。
韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が外国語映画として初めて作品賞を受賞し、大いに沸いた今年の米アカデミー賞。前哨戦のゴールデングローブ賞でも一足先にアジアを題材にした作品が話題をさらっていた。中国系移民を描いた映画「フェアウェル」に主演したオークワフィナが主演女優賞(ミュージカル・コメディー部門)をアジア系で初受賞したのだ。
中国と韓国にルーツを持つ両親のもと、ニューヨークで生まれたオークワフィナはラッパー兼俳優として時の人となった。
全米700館超で上映
同作は北京出身で、幼いころ米国に移住したルル・ワン監督の実体験に基づく人間ドラマだ。中国系米国人の若い女性が、余命少ない祖母に会うため中国を訪ねる。本当の病状を祖母本人には伝えず、隠し通そうとするあまり珍妙な言動をとる親戚と、自らのアイデンティティーを見つめる女性の姿を描く。
「いつか自分の家族について映画をつくりたいと思っていた」とワン監督。「米国にいるとよそ者のような気持ちになる時もあるが、中国に行くと価値観の違いに気づき、自分は間違いなく米国人だと分かる。移民が経験する揺れ動く感情を、米国の一つの家族の物語として描きたかった」
2019年7月、全米でわずか4館で限定公開されたが、口コミで人気が広まった。「米国では字幕付き映画はヒットしない」という予想を覆し、最終的な上映館は700以上。日本でも今後公開予定だ。
「コロンバス」(公開中)の主人公は、韓国系米国人の男性。建築学者の父を見舞うため、米インディアナ州を訪れ、1人の女性と出会う。演じたのはソウルで生まれ、ロサンゼルスで育った米国人の人気俳優ジョン・チョーで、メガホンをとったのも韓国系米国人のコゴナダ。日本の小津安二郎監督から大きな影響を受け、小津を支えた脚本家の野田高悟にちなんで名前を付けたという。
金融街の男たちから金を巻き上げたストリッパーを描いた「ハスラーズ」(2月日本公開)は、台湾から米国に移民した両親を持つ女優コンスタンス・ウーが主役に起用された。世界の歌姫ジェニファー・ロペスとダブル主演を務めている。今後公開されるディズニーの実写作品「ムーラン」でも中国出身のリウ・イーフェイが主演する。
これまでアジア系俳優が主演する米国映画といえばアクション中心で、大半は脇役に甘んじていた。流れを変えたのは、中国系米国人女性がシンガポールの富豪一家と出会う「クレイジー・リッチ!」(2018年)の世界的な大ヒットだ。米国内だけで興収1億7500万ドル(約190億円)。アジア系主演作としては「ジョイ・ラック・クラブ」(1993年)以来の話題を集め、続いてジョン・チョー主演のスリラー「search/サーチ」(18年)もヒットした。
観客の好みが変化
ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト、小西未来氏は「こういう市場があったのかとハリウッドの映画スタジオが(アジア系の主役起用に)前向きになった」と指摘。「アジアの人たちの視点で描かれた米国映画はほとんどなく、だからこそ観客にも新鮮に映った」とみる。
小西氏によると、アジア系の役を白人俳優が演じる「ホワイトウオッシング」と呼ばれる配役は非難されるようになり「役柄通りのアジア系を起用する作品が広がっている」という。
コゴナダ監督は「映画に多様性が求められている」と実感したようだ。「米国の観客の好みは変化し、より複雑で冒険的になっている。小さな街でもすしやキムチが好まれるように、映画にもそうした傾向が当てはまるようになった」と話す。ワン監督も「一時的なものではなく、多様な人たちの映画が普通につくられることが望み」という。
新型コロナウイルスの感染拡大が映画界にどう影響するのかは不透明だが、アジアを重視する傾向はしばらく続きそうだ。
(文化部 関原のり子)
[日本経済新聞夕刊2020年4月6日付]
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