反成長を訴える『ちいさいおうち』 幼少期に読み共感立正大学学長 吉川洋氏

吉川洋氏と座右の書・愛読書
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幼少期に読んだ一冊が忘れられない。
よしかわ・ひろし 1951年東京生まれ。東大経卒、米エール大で博士号。東大教授などを経て2019年4月から現職。専門はマクロ経済学。多くの政府審議会に参画。

これまでの人生で、大きな影響を受けた思い出の本が何冊かあります。『ちいさいおうち』は子供向けの絵本ですが、反経済、反成長を訴える物語です。豊かな自然に囲まれていた小さな家。周辺は徐々に開発され、電車が走り、高層ビルが建って空気も汚れてしまいます。そこで、田舎の丘に移築すると、再びのどかな生活が始まります。初めて読んだ年齢は思い出せませんが、繰り返し読みました。桃太郎、金太郎や牛若丸が絵本の定番でしたが、毛色が違った本になぜかひき付けられたのです。経済の知識があったわけでもないので、心情的なものでしょう。

絵本に流れるロマン主義ともいえる考え方は、その後、大学で教えを受けた故・宇沢弘文先生の思想とも重なります。意識の底に残っていた絵本の精神に突き動かされて、宇沢先生の門をたたいたのかもしれません。

中学生のとき、最も好きな科目は幾何でした。1本の補助線を引き、論理的に定理を証明します。まさにこれが学問ではないかと夢中になりました。小説や詩を扱う国語もそれなりに好きでしたが、学問としてはなんとなく少し柔らかいのではないかと物足りなさを感じていたのです。

そんなときに出合ったのが『風土』です。専門家の間には否定的な評価もあるようですが、これだけ重要な問題を、日本語を使って緻密に議論できるのだと分かり、深く感動しました。若干、早熟かもしれませんが、中学で和辻哲郎の作品を読むのは特別ではありませんでした。風土をモンスーン、砂漠、牧場に分けて論じた著作は『ちいさいおうち』に通じる要素もあり、東京で生まれ育った自分には、異郷へのあこがれがあったのかもしれません。

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