大阪の雑貨店「LOSER」では米国西海岸のアーティストのカセットを扱う。都内で観葉植物や雑貨を販売する小川武さんはヒップホップ系の音楽カセットを目当てにLOSERに通い続ける。84年生まれの小川さんは「自分はぎりぎりカセット世代。1品1品に手作り感があり、中に入っている冊子やカバーデザインもおしゃれ」と話す。
確かにカセットは単に聴くのではなく見たり触ったりして作品を楽しめる。これは先に「復権」を果たしているアナログレコードにも通じる。
ラジカセ人気も再燃している。多くのメーカーが撤退したが、今も製造・販売する東芝ライフスタイル(川崎市)によると、新品ラジカセの市場規模は年間50万台前後。ピークの89年の10分の1以下だが「カセットテープの魅力を知った若者が新たな購買層」と、家電収集家の松崎順一さんが教えてくれた。
松崎さんが中古ラジカセの収集を始めたのは03年。5千台以上所蔵し、今夏に東急ハンズ渋谷店で中古ラジカセの販売コーナーを開く予定だ。ワルツでも「15年の開店から累計で約2000台売れた」(角田さん)。高性能な中古ラジカセが見直されている。
取材した関係者の多くがデザイン系の仕事と関わっていた。ファッションやモードとしてカセットやラジカセを再評価する人がいて、その人を起点にファンがじわじわ広がっているようだ。記者も家の物置から古いラジカセを引っ張り出したくなってきた。
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大物アーティストも関心
世界的にネット経由の音楽視聴が広がり、CDなどパッケージメディアが売れない時代だ。ネットでは1曲からの購入もできるから、アルバムとしての作品性や完成度をアピールしにくいことに不満を抱くアーティストは少なくない。
海外アーティストではマドンナやビリー・アイリッシュといった大物もカセットを出している。「ネットでは何も残らない。作品をモノとして残すためカセットというメディアが見直されている」とタワーレコード(東京・渋谷)は分析する。
(木ノ内敏久)
[NIKKEIプラス1 2020年4月4日付]