熱々をツルッと、柔らか麺に香るつゆ 宮崎のうどん
太平洋に面し、沿道で季節の花が咲き誇る宮崎市は南国情緒たっぷり。宮崎県も「日本のひなた」と名付け、観光客の誘致に力を入れている。そこで意外にも人気なのが、熱々のうどんだ。実は「うどん大国」である宮崎市を代表する店を訪ねた。
「約60年前の創業以来、母の味を守っている」。そう話すのは元祖釜あげうどん重乃井の女将、伊予展子さんだ。両親は宮崎で初めて釜揚げうどんを紹介したという。店で出すうどんは釜揚げうどんのみでトッピングは一切なし。味が変わるためだ。
昼時は店の外に行列ができるほどの人気店だが、本店だけで支店はない。海外出店の誘いもあったが「味が変わるからと断った」(伊予さん)という徹底ぶりだ。
麺は展子さんの息子の雄三さんが店内で手打ちする。毎日、小麦粉をボールでこね、足で踏んで生地を作り、1日寝かせる。
お目当ての釜揚げうどんは注文して15分ほどで登場。昆布、かつお節、さば節などでだしをとったつゆの香りが鼻孔を刺激する。麺はつゆにつけて食べるが、つゆにつけずに食べても、小麦の風味が何ともいえず香ばしい。
1913年創業の大盛うどんは朝9時開店。女将の久米亜紀子さんは4代目だ。「うどん店としては宮崎市内で最も古い」と久米さんは話す。創業当時は冷蔵庫のない時代。残ったうどんを近くの池に捨てていたが、創業者が捨てるくらいならと「大盛り」で提供したことから、いつのまにか店名になったという。
かけうどんを注文して待つこと5分。いりこ(煮干し)の香りがつゆから漂う。「煮干し特有の風味が香るつゆは創業以来変えていない」と久米さん。やや濃いつゆは煮干しのほか、宮崎産のしょうゆとザラメで仕込む。麺は九州産小麦を使っている。
三角茶屋豊吉うどんは1932年創業。宮崎市内で8店舗を展開し、本店は朝の6時から営業している。安さが売りで、かけうどんは1杯230円。平日朝の5種類のセットメニューは、うどんのほかごはんやおにぎりを選べて330円だ。本店店長の金丸祐子さんによると、朝のお客の大半はセットを注文する。
注文してすぐに出てくるかけうどんは、湯気の立つつゆから煮干しの風味が香る。つゆは毎日午前2時から工場で煮干し、昆布やかつお節などを大釜で2時間じっくり煮込み、各店に配送している。麺は柔らかめで、甘くも辛くもないつゆによくなじむ。
朝の6時から営業する三角茶屋豊吉うどん本店では、JR宮崎駅から離れた住宅街に立地するにもかかわらず、平日10人ほどが開店を待つ。タクシーの運転手らが、朝食代わりに利用するケースが多いという。 また、大盛うどんの入り口の横には、大型のうどん自販機がある。卵の自販機をうどん用にした特注品で、麺やつゆだけでなく、トッピングの品ぞろえも豊富だ。「宮崎牛」や「チキン南蛮」など全国的に有名な料理を食べ過ぎたら、うどんで胃を休めるのもいいかもしれない。
(宮崎支局長 武内正直)
[日本経済新聞夕刊2020年4月2日付]
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