身障者ドライバーと走る 支援者と耐久レースに参戦

事故で障害を負った後も、モータースポーツに参加して充実感を味わいたい。そんな気持ちを抱く身障者ドライバーのサポート団体にパラモ・モータースポーツクラブ(東京都青梅市)がある。神奈川トヨタ自動車(横浜市)などの支援も受け、健常者チームばかりの耐久レースの年間戦で結果を出している。

「12時間の耐久レースの最終周回では、コースサイドの係員が全員で色とりどりの信号旗を振って出迎えてくれる。充実感で心が熱くなる」

耐久レースは時間が勝負。車椅子から車への乗り換えを支援する

24歳でバイク事故に遭い、下半身が不自由な東京都八王子市在住の会社員、佐々木隆寛さん(55)は、ツインリンクもてぎ(栃木県茂木町)で毎年3戦開かれる耐久レースの常連だ。4~8人の身障者ドライバー仲間と、レース用に改造したトヨタのスポーツカー、MR―Sのハンドルを握る。毎回50~100チームが参加し2018年にはクラス3位を獲得した。

佐々木さんが所属するパラモ・モータースポーツクラブはJAF公認クラブで、ドライバーや車の条件がそろえば公式レースにも出場できる。クラブの母体は日本身障運転者支援機構(東京都青梅市)。クラブ会長と機構理事長を兼ねるのは佐藤正樹氏(56)だ。

佐藤氏はプロレーシングドライバーのマネジャー出身。身障者や福祉の世界とは無関係だったが、2000年ごろスキーのパラリンピック選手のマネジメントをしたとき、その選手が日常的に車を運転していることに驚いた。その後、アマチュアとしてレースに出たがっている身障者が一定数いることも知り、持ち前のマネジメント力で「彼らの夢をかなえ、サポートしよう」と機構とクラブの設立に動いた。

クラブの入会条件は、身体障害者手帳の所有者であること。会員数は940人だが、佐々木さんのようにサーキットで戦うアマチュアは40人ほど。「会員証を持つことで心情的に満足する人も多い」と佐藤氏。

身障者モータースポーツの水脈は、1990年代はじめから細々と続いてきた。ハンディ・ドライバーズ・クラブという50人ほどの集団があり、下半身まひを抱えた稲葉衛氏(故人)を中心に、ハンドルさばきを競うジムカーナ競技に参加していた。佐藤氏は稲葉氏らの活動に敬意を払い「自分たちが活動を引き継いだ」と語る。

クラブ員には「健常者に負けない」などの意識はあまりない。レースに参加しているのは若い時に運転中の事故で障害を負った人が多く、彼らの心には、もともと趣味としてモータースポーツを実践することが根付いていたからだ。

ただ、チームが身障者をレースに送り出し続けるのは容易ではない。練習や本番でコーナーを1度回るごとに、タイヤの摩耗などで「500円玉が1枚ずつ消えていく」(佐藤氏)という。佐々木氏も「1回の耐久レース出場で10万円の個人負担がかかる」と話す。

車両の問題もある。使用中のMR―Sは機械式の自動変速装置付きで、各ドライバーで異なる障害の場所や程度に対応させる改造ができた。しかし年間クラス3位に入るような過酷なレースを続けたことで各部の摩耗が進み、車両更新が必要な時期が迫っているのだ。

佐藤氏は日本身障運転者支援機構理事長として、自動車メーカーなどに講演することがある。そんな時感じるのは、身障者ドライバーの存在が知られていないこと。身障者が車によって移動や生き方の自由を確保できると知らせるためにも、活動を続けるという。

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資金やパーツ、企業も協力

モータースポーツには資金が必要だ。パラモ・モータースポーツクラブは数社のスポンサーを得ている。その一社が神奈川トヨタ自動車(横浜市)。高齢者施設の送迎用など特装車を扱うウェルキャブ室を窓口に、車両のパーツ提供とレース参加の協賛金で、年間50万円分ほどの支援をしている。

手を差し伸べたのは神奈川トヨタ側。当時のウェルキャブ室長、都丸美里氏は「身障者と健常者が同じレースに参加する姿はノーマライゼーションそのもの。車で豊かな生活を創る会社の目的に沿う」と考え八木美保係長に関係団体を探してもらった。そうして八木氏がパラモクラブを見つけ出し、以来「クラブの佐藤正樹氏の熱意に引かれた関係」(平出英明現室長)が続いている。

ウェルキャブ室は障害者向け運転装置を備えた車も販売している。装置の選択や調整などでは、パラモクラブとの関係から学ぶ点もあるようだ。

(礒哲司)

[日本経済新聞夕刊2020年4月1日付]

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