医師が歩むカジダンの道 まるで当直、育児は重労働
川崎市立川崎病院医師 田中希宇人氏
朝は4時起床。寝ている長女(6歳)、長男(3歳)、次女(1歳)のおでこに手を当て、発熱もなく元気そうなのを確認して家を出ます。病院に午前6時到着。書類仕事を片付け、定刻8時半に始まる外来や病棟の通常勤務に備えます。朝、子供と一緒に過ごす時間を思い切って割愛するのは、できるなら早く勤務を終え、家で家族と過ごす時間を作り出すことを目指しているからです。
医師となって16年目。呼吸器内科医として勤務する病院は365日24時間体制で重篤な患者を受け入れ、週1回は当直します。最近は新型コロナウイルス感染症の問題もあり一段と多忙な職場です。
2019年3月、次女の誕生に伴い2週間の育児休業(育休)を取りました。仕事をしていた妻が切迫流産のため退職。自宅で絶対安静を強いられるなか決断しました。
育休で家族と一緒に過ごして気づいたのは「名前のない家事」の多さ。それまで自分は家事が結構できると思っていました。妻の仕事にも夜の勤務があり、妻が不在の日は私が2人の子供の世話をし子育ての大変さも実感していました。自分のことは自分で。YouTubeを手本に、ワイシャツのアイロンかけもしていました。育休で分かったのは24時間体制で授乳をしながら上の子の世話をし、食事の準備もこなす妻の姿。自宅で毎日、当直しているようなものです。
私の家事の目的は「家族が過ごしやすい環境づくり」へと変化しました。皿洗い、足りない生活用品の買い出し……。家庭に必要なことを自ら探し出す。そのためには、余裕を持って家で過ごす時間を作り出すことが欠かせません。
勤務先では男性医師の育休取得例はありませんでした。呼吸器内科の医師は自分も含めて4人で、そのうち2人が女性医師。彼女たちからの「家族を支えて」という後押しもあり実現しました。
一方、医師の仕事は患者さんも深く関わります。入院患者さんの多くから育休取得に理解をいただきましたが、一部には2週間離れることを不安に思う声もありました。当然でしょう。何かあったら綿密に連絡を取り合う医師のカバー体制を作ったことを説明し、なんとか理解してもらいました。
内科の現場では1人の患者に1人の医師がずっと関わる「完全主治医制」という習いがあります。医師の長時間勤務や育休が取りづらい状況につながっています。医師の働き方が変わるには患者さんとの関係づくりも変えていく必要があります。私は今、医師・患者さんに向けてSNS(交流サイト)やブログを通じて最新医療の情報発信をしています。互いに知見を深めることで医療現場の時短につなげたいという思いからです。
妻もやがて仕事を再開するでしょう。子供もどんどん成長していきます。移り変わる家族の現場でどんな家事ができるか。コラム連載を通じて考えていきます。
39歳。2005年慶應義塾大学医学部卒業、13年川崎市立川崎病院勤務。日本呼吸器学会呼吸器専門医など。ブログ「肺癌勉強会」やTwitter(@cutetanaka)で最新情報を発信中。
[日本経済新聞夕刊2020年3月31日付]
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