浴室の水あかには酢やクエン酸 身近なもので簡単掃除
生活研究家 阿部絢子
最近、同年代の知人など周囲から日常生活の中で転倒したとの話をよく聞く。それも単純な転倒ではなく、膝を痛めた、歯を折ったと後遺症がつく。転倒しないのが一番だが、慌てたり、焦ったりして指を切る、捻挫をするなどのけがは誰にでも起こりうる。
病気したりけがで身体を痛めたりすると、家事は滞りがちになる。安静にして体を休めていても、家事でやるべきことがたまったとしたら気持ちが落ち着かない。こうした場合、いずれはしっかり挽回できると思うことができれば、静養や治療に専念できる。
いずれ挽回できると安心するためには、効率よく家事を進める技と知恵、そのために使う素材や道具を持ち合わせていればいいのだ。そこで重要なのは、積極的に新技術の習得に努めること。これまで通りの方法にこだわっていては、滞った家事を元通りにする効果は薄く、時間がかかることもあるからだ。シニア期など時間があっというまに過ぎると感じる年代ではなおのことだ。
新技術のポイントは、家事のハードルを低くすることにある。
例えば、浴室の水あかの掃除。浴槽に白くついたものや、カランで歯石状に固まったものだ。これまでは一大仕事として、クレンザーや専用洗剤を準備して擦り、「もっと早めに始末しておけばよかった」と反省が先に立つことが多かっただろう。実際、働き盛りで仕事が忙しいと、見て見ぬふりをして後回しにしてしまう。
だが、水あかの組成や発生経緯を理解しておけば、この滞った家事挽回に必要な素材や道具も分かり、掃除のハードルは下がる。
水あかのもとは水の中に含まれているカルシウムやマグネシウムなどだ。これらはクエン酸や食酢など酸性物質で溶ける。わざわざ、クレンザーや専用洗剤を準備する必要もない。台所にあるものが、気軽な「薬剤」代わりになる。
いずれも水あか掃除は簡単。まずはキッチンペーパーを用意する。クエン酸を水に溶かした液を作る。酢ならそのまま。これをキッチンペーパーに浸し、浴槽やカランの水あかに貼り付ける。
待つこと30分。固まっていたカルシウム物質は水に溶けやすい物質に変化する。そこで、スポンジ、ブラシ、ナイロンタワシなどで擦り水で流す。力もいらずに落ちる。浴室、洗面所、シンク、ヤカン、コーヒーマシンなど、水あか付着の所はどこにでも使える。
酢やキッチンペーパーはいずれも台所にある身近な品々。こうしたものを使うことで、水あか掃除が特別な大ごとなものでなくなる。「特別な家事」にしないところが、水あか掃除がラクになるかどうか分かれ目になる。
時短家事には、薬剤や道具、技や知恵を大いに駆使し、暮らしを楽しむ有効時間を、より多くしていきたいと考えている。
薬剤師の資格を持ち、洗剤メーカー勤務後に消費生活アドバイザーに。家事全般や食品の安全性の専門家として活躍。「ひとりサイズで、気ままに暮らす」(大和書房)「ひとり暮らしのシンプル家事」(海竜社)など著書多数。
[日本経済新聞夕刊2020年3月24日付]
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