進化する顔認証を体験 マスク・眼鏡つけても「本人」
カメラで撮った顔の特徴をとらえ人物を特定する顔認証システム。パスワードや鍵、ICカードを使わずに本人確認できる手軽さで、暮らしの中に浸透している。どこまで普及し、どの程度まで精度があるのか探った。
東京タワーを間近に望む三田国際ビル(東京・港)の20階に2018年12月、セブンイレブンの小規模店舗がオープンした。何の変哲もない店のように見えるが、実は顔認証で入室や決済ができる最先端の店舗だ。同ビルに入居するNECがセブン―イレブン・ジャパンと共同で開発し、グループ企業の社員向けに開いた。
入り口にカメラがあり、登録した社員が近づくと顔を識別して自動でドアが開く。レジは無人で、購入した商品のバーコードを読み取り機にかざせば決済が完了。代金は給与口座から引き落とされる。30代の男性社員は「財布を持たなくても済み、レジの待ち時間も短いので手軽に買い物ができる」と歓迎する。
顔認証は顔の特徴を検出する技術とデータベースから照合するマッチング技術で構成。目や鼻、口、眉毛などの形や配置など顔の特徴を細かくデータ化して照合する。他人のそら似や兄弟、双子も識別できて、NECの場合、エラー率はわずか0.4%だ。
それを確かめようと、顔認証を体験できる東京・三田のNEC本社内のショールーム「フューチャークリエーションハブ」を訪ねた。
まず、専用のタブレット端末で素顔を撮影。その後、カメラが付いた大画面の前に立ち、認識すれば右上の小画面に本人の顔が映る。マスク、眼鏡、サングラスをそれぞれかけた場合を試したがすべて成功。マスクと眼鏡を両方着用した場合でも認識でき、改めて精度の高さを実感した。
NECの担当者の吉田真理子さんは「暗証番号や鍵、カードは忘れたりなくしたりする恐れがある。顔認証は自分自身がIDなので、その心配はない。なりすましの危険もない」と話す。
ただ、目出し帽のように顔全体を覆うと認識できない。逆光や夜間など画像が不鮮明な場合や横顔は認識できるが、精度が落ちるようだ。
顔認証は身近なところにも広がる。例えばスマートフォン。パスワードではなく、画面に顔を向ければロックが解除できる機種もある。パソコンもカメラ部に顔を向け、確認されれば起動するものも登場している。
今後、普及しそうな分野がホテルだ。カメラで顔を登録すれば、顔認証で入退室ができる。簡易型宿泊施設を運営するbnbプラス(東京・千代田)は東京や大阪などにある20店舗のうち、8店舗で昨年から顔認証システムを始めた。宿泊客はチェックイン時にタブレット端末のカメラで顔を登録。ドア付近のセンサーに顔を近づけると、ドアが自動で解錠される仕組みだ。
就業体験のため虎ノ門店(東京・港)に滞在した札幌市の専門学校生、伊勢谷天馬さん(19)は「外出時、鍵を持つ必要はなく紛失の心配もない」と話す。高志保博孝社長は「スタッフは接客など人間にしかできない業務に専念できる」と利点を挙げる。
マンションでも導入が進む。宅配ロッカーを手掛けるフルタイムシステム(東京・千代田)は17年10月、顔認証でオートロックと宅配ロッカーを解錠できるシステムを開発。昨年から住宅会社がこのシステムを採用したマンションを売り出している。
トーシンパートナーズ(東京都武蔵野市)が今年1月から売り出した単身者向けマンション「ZOOM新宿西落合」(東京・新宿)。顔を登録した入居者が玄関前に立つとカメラが認識しオートロックが解除されドアが開く。同様に宅配ロッカーも顔認証で荷物を取り出せる。
フルタイムシステムの秋山賢さんは「荷物などで両手が塞がっていても簡単にドアを開けることができる」と話す。こうした点が受けたのか、2月末で7割の部屋が埋まるほどの人気だ。
安全性や利便性を考えれば、顔認証は今後、有力な手段の1つになるだろう。
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指紋・虹彩…状況やコストに応じて
顔認証以外にも体の特性を基に人物を特定する方式はある。指紋認証や、手のひらや指の静脈のパターンを照合する静脈認証、目の虹彩の模様で識別する虹彩認証などの総称が「生体認証」だ。指紋認証は手軽だが、指紋が薄く読み取れない場合がある。指を機器に押しつけるため衛生的に嫌う人もいる。顔や静脈、虹彩は非接触だが、静脈や虹彩は比較的機器が高額。顔認証も防護服などで顔全体を覆うと認証が難しく、虹彩認証の方が適している場合もある。コストや状況に応じて方式を選ぶ必要がありそうだ。
(高橋敬治)
[NIKKEIプラス1 2020年3月21日付]
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