「ビジョナリー」理論で行政組織に喝 県民起点を貫く
広島県知事 湯崎英彦氏
湯崎英彦氏と座右の書・愛読書
ゆざき・ひでひこ 1965年生まれ、東大法卒。90年通産省入省、スタンフォード大でMBA取得。2000年にアッカ・ネットワークス設立。09年11月から現職。
知事になった当時、県庁職員からみれば、私は「宇宙人」だったのですよ。この人は何を言っているのかわからん、使う言葉からして違うと。
私はまず、「県民起点」「現場主義」「成果主義(志向)」という3つの視座を示し、職員に行動理念をつくってもらいました。例えば「私たちは変革を追求し続けます」などです。そして実行段階では方法論を求めた。バックキャスティングとか、EBPM(証拠に基づく政策立案)などです。県庁ですから、良いアイデアを出して政策をつくる必要があります。しかし、それ以上に重要なのが良いアイデアが生まれる仕組みをつくることです。広島は「イノベーション立県」を掲げていますが、これも新技術がひとつできればよいのではなく、イノベーションを生み続ける仕組み、環境をつくることが重要になります。
こうした私の考え方の基礎になっているのが『ビジョナリーカンパニー』です。私が米国のビジネススクールにいた時、著者のジム・コリンズがいてすごい人気のクラスでした。「時を告げるのではなく、時計をつくる」「ORの抑圧をはねのけ、ANDの才能を活(い)かす」などとスクールで学んだ経営論がこの本に凝縮されています。
会社も役所も基本は同じですが、異なる点もあります。民間は商品やサービスを顧客に買ってもらえないと存続できなくなるが、行政は変なサービスをやっても税金は入ってくる。規律が自動的に働かないのですね。だから、政策サイクルを意識して組織的に規律を入れないといけない。今では私の考え方が理解され、職員の「宇宙人度」も上がってきたと思います。
同じく座右の書に上げた『コーポレートファイナンスの原理』も物事を考える基礎になっています。企業財務の本ですが、リスクとは何かとか、時間価値を考える重要性などは、すべての物事に通じます。我々がいつどこで決断すればいいのかという話はオプション理論の応用になります。『刑法 総論1』もそうです。何のために刑法があるのかを論じた本です。
先ほど話した「県民起点」だって、簡単な話ではありません。絶えず相反する利害がある。そのなかで、なぜ我々はある政策を選択するのかを突き詰めて考えないと、本当の県民起点にはなりません。刑法とは何かを考えることにつながるわけです。