白味噌に甘さ引き立つ 香川のあん餅雑煮

自作のあん餅雑煮。餅の歯応えも味わいを引き立てる
自作のあん餅雑煮。餅の歯応えも味わいを引き立てる

讃岐三白(さぬきさんぱく)とは土地の産品である砂糖、綿、塩のこと。砂糖の代わりに米が入ることもあるが、それにしても香川県は砂糖好きの土地柄のようだ。土産のしょうゆ豆も甘いし、うどん屋に置いてあるちらしずしも甘い。藩が奨励したサトウキビがあたりに植わって身近な割に、庶民には縁遠い憧れの味覚だったためだろうか。

あん餅雑煮はその名のとおり、雑煮にあん入りの丸餅を入れる変わり種で、ここ何十年かで全国にも名が売れた。京都の文化が伝わったのか、つゆは白味噌(甘味噌)だ。

せめて正月くらいはぜいたくをしようと、江戸時代の末期か明治の初めに広まった民俗らしい。藩に納める砂糖を、役人に見とがめられないよう餅に包んで食べたとか、塩あんの餅を別に作って雑煮検(あらた)めをごまかしたといった話も伝わるが、真偽のほどは分からない。

あん餅雑煮の材料。だしは名品の伊吹島のいりこ。かつおだしも良い

いずれにせよ、香川の人々がひそかに誇りに思う料理には違いなく、年配の人に話を振ると、子供の頃はあん餅にだけでなくさらにごみ砂糖を入れて甘くしたとか、逆に、つゆにあんこが混ざらないように食べるのがコツだとか、持論の解説に力がこもる。

大冊「香川県大百科事典」(四国新聞社、1984年発行)のあん餅雑煮の項に「ニンジン、ゴボウ、里芋、細めの大根」などとあるから伝来の具は多彩だが、大根だけの家や鶏肉を入れる家など要は母の味で、決まりはない。

名が知れて最近は正月以外も出す店が増えた。高松の市街地をざっと見渡して5軒ほど。具は大根とニンジンが標準になった。ニンジンは季節野菜の金時人参を使うが、普通のニンジンの店もある。

ぶどうの木はだし入りの白味噌とあん餅を全国発送してくれる

別腕のアオノリを好みで乗せるエビスヤは香りが良い(冬季メニュー)。24年前から通年で出しているぶどうの木は冷凍での発送もしている。家庭料理そのままの風情で、だしの取り方や自作の餅など各店微妙に風味が違って食べ比べると面白い。あん餅雑煮うどんというのもあり、高松では源平の古戦場、屋島の桃太郎茶屋が出す。

エビスヤは作り方を書いた紙をくれる。材料は写真の通り。好みもあろうが、魚の臭みを抑えてだしを取り、味噌は多めで濃厚に作るとあんの甘さとよく合う。単に味噌汁にあん餅を入れる料理だが、まるで別品に仕上がるから不思議だ。すぐ溶けてしまうので大福では作れない。

<マメ知識>地域によって塩あんも
県の教育委員会が1976年度に作成した香川県民俗資料緊急調査報告書の雑煮調査によると、小豆島などの島域と県南部のまんのう町あたり、それから東部の東かがわ市以外は、ほぼ県の平野部全域が白味噌あん入り(あん餅雑煮)だった。分布地図を見るとざっと7割方があん餅雑煮で、まさに香川県の郷土料理だ。県西の三豊市や観音寺市には白味噌塩あんや、赤味噌塩あんという地域もある。調査には出てこないが甘いあん餅と塩あんの餅を両方入れる家もあり、実際にはもっと多様だったようだ。

(高松支局長 深田武志)

[日本経済新聞夕刊2020年3月19日付]

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