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金子さんは納車担当として接客するノウハウを販売にも生かす

激しい販売競争で知られる自動車ディーラーの世界で、自動車教習所から転身した異色の販売員がいる。ホンダカーズ東京西の「さくらモール羽村店」(東京都羽村市)で働く金子里乃さんだ。納車担当として磨くコミュニケーション力を生かし、来店者のふとした一言から"日常の相棒"となる一台を探し出す。自身も「世界が広がった」と話す車の魅力を若者にも伝えていく。

「こんにちは」――。コンビニエンスストアや回転ずし店が入居する商業施設、さくらモールにある店に足を踏み入れると、まず明るくあいさつする。一般的な店では当たり前の光景だが、マニュアルで決まった応対として声をかけているわけではない。その一言に対する反応で来店者の雰囲気を感じ取るというのだ。

新車について聞きたいと思われる人には積極的に声をかけ、口数が少なそうな人とは少し距離を置く。ホンダカーズを訪れる人は、家族連れや中高年と来店客の年齢層は幅広い。一人ひとりにあった接客を意識している。

こうした接客は主な役割である「納車」担当のノウハウが生きている。羽村店は全国のホンダカーズで都内唯一の納車センターを持つ。他店で購入された新車の納車を担い、金子さんが普段会う人は初対面の人ばかり。第一印象を見ながら東京五輪などの話題を振り、来店客の趣味や車の使い方などを聞く。短時間ながらも納車時のやり取りの小さな積み重ねが接客で本音を聞き出す際の引き出しとなった。

高校卒業後、以前通っていた自動車教習所で働き始めた。その後、転職するにあたって「運転好きを生かせる新たな仕事」として選んだのが車販売店だった。入社後は経理担当として働き、営業部門に異動。人と話すことは苦にならないと楽観的に考えていたが、現実は甘くなかった。

自動車に関わる業界にはいたが、ホンダ車の知識は皆無。それでも、来店客は知っていて当然と聞いてくる。質問に答えられないことも多く「何も知らないんだね」と言われた場面も少なくなかった。先輩社員に相談しつつカタログを自宅に持ち帰り学ぶ日々。それでも1年ほどで、対応できる知識を身につけた。

納車でなく販売員として、ある家族を接客した日のこと。いつも通りあいさつし、自然の流れで車に積みたい物や乗る人数などを聞いていると、来店客が希望する軽自動車より、ワゴンタイプが向いていると思った。丁寧に理由を説明しつつワゴン車を提案。最終的に家族は納得した上で購入を決めてくれた。

最近は羽村店で接客した顧客と、購入後の納車で再会することが増えた。自ら薦めた新車に乗り込む顧客に「ありがとう」と言われ、しかも納車後のアンケートで良かった販売員として金子さんの名前を入れてくれる人もいる。車離れが進むなか、車の魅力をより多くの人に伝えていく方法はないか。分かりやすい接客に突破口を求め、研さんの日々が続く。

(原欣宏)

[日経MJ2020年3月15日付]

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