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まず大事なのは、一人では重すぎる子育ての負担を分担することだ= イラスト・よしおか じゅんいち

感染症が人間社会を混乱に陥れ、歴史をも動かしうることを『銃・病原菌・鉄』(倉骨彰訳、草思社文庫・12年)で鮮やかに描写したジャレド・ダイアモンドの一連の著作の中に、Why Is Sex Fun? といういささか刺激的なタイトルがある(『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』、長谷川寿一訳、草思社文庫・13年)。その第3章はまるごと、なぜ男性の乳首は乳を分泌しないのかというテーマに充てられている。これがけっこうな難問であること論じた原著の刊行から約20年、ダイアモンドが夢想した男性授乳社会はまだ訪れていないが、父親の役割への注目は確実に高まっている。

理想化に懸念も

研究者の世界では、子育てを巡る議論が母親の問題に終始してきたことへの反省の声がきかれる。赤ちゃんには母乳が一番、3歳までは母親が一緒にいるべきだ等々、母親が子の健康、社会性、学業に与える影響が論じられてきた一方で、父親は生活費を稼ぐだけの存在として扱われてきた。『父親の科学』(ポール・レイバーン著、東竜ノ介訳、白揚社・19年)は、そうした状況への反発から生まれた数々の研究を、再婚して思いがけず2度目の子育てをすることになった父親の視点からまとめている。

本書やその類書では、育児に積極的な父親の脳が変化することや、母にはない父独自の役割などが誇らしげに語られる。イクメンを讃(たた)え、イクメンを応援するそれらの思いは真摯なものであろう。しかし他方で、特定の父親像を持ち上げ理想化する言説を積み上げることが、様々な事情でそうなれない男親に父親失格の烙印(らくいん)を押すことに繋がらないか、懸念も覚える。それでは母乳神話や3歳児神話が母親たちを縛り付けてきたことの繰り返しになりかねない。

そもそも父親が重要なのは、人間の子供が哺乳類の中では例外的に手のかかる、面倒な存在だからである。携帯電話がスマートに(賢く)なったことで製造コスト(価格)やランニングコスト(バッテリー消費)が跳ね上がったのと同じように、賢いヒト(サピエンス)を育て上げるコストも莫大である。母親だけではとても負いきれないので、父親も子育てするように進化したと考えられている。

『まんが親』(吉田戦車著、小学館・11年~17年)が軽妙に描くように、愛する子であっても時に疎ましく思われるのは当然のことだし、そこに男親も女親もない。まず大事なのは、一人では重すぎる面倒を分担することであり、独自の役割やら知育やらはオマケ程度に考えたほうが良いのではないだろうか。さらに言えば両親だけで全てを負う必要もない。親族やコミュニティで子育てを行うのがヒトの元々の姿であったと考えられているし、少し前の日本の子育てもそういうものだった(『江戸の乳と子ども』沢山美果子著、吉川弘文館・17年)。

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