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復興福島の今を味で伝える 予約で埋まる郡山の人気店

日経MJ

予約でいっぱいだが、キャンセル待ちもできる
予約でいっぱいだが、キャンセル待ちもできる

福島の食材はおいしい――。そう心に響かせてくれるレストランが福島県郡山市にあるフランス料理店の「なか田」だ。

席数はカウンター7席、個室のテーブル4席というこぢんまりした店舗だが、1カ月先まで予約で埋まる人気店だ。それもそのはず、中田智之オーナーシェフは、著名な三つ星レストランを渡り歩き、研さんを重ねた。その実力が認められ、素材主義調理の第一人者、奥田政行シェフの「アル・ケッチァーノ」グループに入社した。

奥田シェフが郡山市に開業した地産地消レストラン「ブランコ福ケッチァーノ」の料理長に就任した後独立し、2019年2月になか田をオープンした。

生産者ととことん向き合うスタイルは奥田シェフ譲りで、毎日のように畑や市場に出向き、生産者と会話し、旬の食材を話題とともに仕入れてくる。

営業はディナーのみ。料理は8千円(税別)と1万円(同)のコースが基本で、だいたいデザートを含めて10皿は出てくる。ドリンクを入れても1万5千円ほどなので、かなり値ごろだ。

料理の内容はまるで福島の食材図鑑のように多様で多彩。「長兵衛芋とホッキのガレット仕立て」は、あまり知られていない、いわき市の伝統野菜「長兵衛芋」のマッシュに焦げ目を付け、そこへ同市小名浜のホッキ貝を半生の火入れで仕上げ、バターソースまとめた。クリームのような里芋の舌触りに、ホッキ貝の潮の香りがアクセントになる斬新な“出会い”の逸品だ。

郡山の限られた生産者が丹精込めて育てる釆女(うねめ)牛のステーキがメーンを飾る。噛みしめるごとにうま味が溢れる「くりみ」をロゼ色に仕上げてフォンドボーソースをまとわせる。付け合わせはオータムポエム(アスパラ菜の仲間)をグリルして添える。肉とソースの甘味をグリル野菜の焦げ目がアクセントに。至福の一時だ。

コースのひと皿。見た目も鮮やかに彩られている

中田シェフは忙しく手を動かしながらも、カウンター越しに素材についてのストーリーを語ってくれる。味覚で楽しませるだけでなく、福島県産食材の情報も添える。食だけでなく福島県の工芸や観光についての情報も織り込む。

同店のウエルカムプレートは大堀相馬焼「陶徳」のものだ。全体的に美しい「青ひび」と言われる地模様が入った特徴的な器だ。この窯元は以前は浪江町にあったが、東日本大震災で被災。郡山市内に移転してようやく再起したところ、19年の台風19号で浸水被害を受け、2月には復活できたという。

そうした福島の今を料理に添えて提供している。地域を巻き込んだフードエデュケーション(食育)だと感じた。

中田シェフのもてなしには郷土愛がつまっている。おいしいだけじゃない。それがこちらまで伝わり、ディナーを終えるころには、その土地に思いをはせ、再訪を誘うきっかけになっている。

もし、福島県に未訪問で、知識欲と食欲を同時に満足させたいなら、なか田を予約してみてはいかがだろう。

(フードジャーナリスト 鈴木桂水)

鈴木桂水(すずき・けいすい)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。“美味しい料理のその前”が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。

[日経MJ 2020年3月13日付]

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