音楽も舞台も無料配信 新型コロナでもエンタメ楽しむ

誰もいない観客席を前に無料配信に臨む東京交響楽団(8日、川崎市のミューザ川崎)=青柳 聡撮影
誰もいない観客席を前に無料配信に臨む東京交響楽団(8日、川崎市のミューザ川崎)=青柳 聡撮影

新型コロナウイルスで興行が続々中止になり、未曽有の危機に直面するエンターテインメント業界。活動の舞台が奪われる中、表現をつなぐ手段としてネット配信に注目が集まる。

「この時期を乗り越えて、また会いましょう」。2月下旬、ファンに再会を約束するメッセージを送ったのは人気ロックバンド、GLAYのボーカル、TERUだ。バンドのギタリスト、HISASHIと2人で6曲を演奏し、イタリア・ムラーノ島から配信した。

ガラス工房から

GLAYはかつてライブで20万人を動員したこともあるが、この日はゼロ。ベネチアでのイベントが新型コロナで中止になったため、急きょガラス工房の一室を借り、スマホのカメラの前で演奏した。約40分の動画は反響を呼び、1週間で10万再生を超えた。

安倍晋三首相が文化イベントを自粛するよう要請した2月26日以降、音楽や舞台などの興行が続々中止・延期となっている。代わりに、観客なしの実演や過去のライブを配信するアーティストが相次ぐ。

個々のアーティストだけでなく、企業ぐるみの取り組みも。エイベックスは5日からユーチューブの公式チャンネルを通じて浜崎あゆみ、倖田來未ら所属アーティストのライブ映像約100本を無料公開した。3月末までの期間限定だ。

これまでライブ配信が少なかったクラシック界でも動きが広がる。

ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)と東京交響楽団は、今月8、14日に開催予定だった公演を無観客で実施し、無料配信する。演奏を収録したCDも販売する。楽団員や指揮者・ソリスト、ホールスタッフらの演奏会にかける熱意をくんで初の無料配信に踏み切った。

びわ湖ホール(大津市)は7、8日に予定していたワーグナーの大作オペラ「ニーベルングの指環(ゆびわ)」の「神々の黄昏(たそがれ)」を無観客で実施し、無料配信した。DVDも発売する。

「ニーベルング」は同ホールが4年がかりで制作してきた一大プロジェクト。全4作で17年から1作ずつ公演し、今回で完結するはずだった。「『神々の黄昏』だけで制作費が1億6千万円ほどかかっており、出演者らの準備はほぼ整っていた。スタッフの再招集も困難なため、無観客でも上演したいという声が大半だった」という。

アンプやマイクを使わずに生音を聴かせ、音質にこだわるファンが多いクラシックは配信にはなじまないとの見方もある。音楽評論家の山崎浩太郎氏は「クラシックは聴衆の年齢層が高いため、すぐ反応があるのかは未知数だが、どんどん挑戦してほしい。配信で世界の楽団と同列に比較されることになるが、その緊張感によってこそ得られるものもあるだろう」と語る。

「人生で初めて」という無観客での落語会を配信した桂文枝

音楽以外でも配信が広がる。落語家の桂文枝は4日、なんばグランド花月(大阪市)での落語会中止を受け、披露する予定だった300本目の新作落語を無観客で演じ、ネット配信した。所属する吉本興業のユーチューブ公式チャンネルで3月末まで見られる。「噺家(はなしか)人生の節目であり、渾身(こんしん)の作品を楽しんでほしい」という思いがあったという。

収入面は期待薄

吉本興業は2日から当面の間、全ての主催公演を中止または延期しており、再開時期は未定。「全公演が一斉に中止になるのはほぼ初めてのこと。ほかの所属タレントらによる演目の配信も検討している」(プロモーション本部)という。

今回、興行には一斉に止まるリスクがあり、それに対する備えはほぼ不可能という危うさが浮き彫りになった。緊急事を前に、アーティストの表現の場や生活の基盤が失われつつある。

代替としての配信は表現手段としては有効だが、収入面の補完は期待しにくい。「投げ銭」方式で配信した例もあるが、興行収入には遠く及ばないのが現状だ。音楽界を中心にライブ市場の活況が長く続いてきたが、今後潮目が大きく変わる可能性がある。

[日本経済新聞夕刊2020年3月10日付]

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