素人衆として歌舞伎座「助六」に出演 大工頭がご縁清水建設会長 宮本洋一氏

宮本洋一氏と座右の書・愛読書
宮本洋一氏と座右の書・愛読書
建築の世界に進んだ自分に最も強いインパクトを与えた本が、巨匠フランク・ロイド・ライトの自伝『ライトの遺言』だった。
みやもと・よういち 1947年東京都生まれ。71年東大工卒、清水建設入社。ほぼ一貫して施工現場に携わり、03年執行役員。07年社長、16年4月から現職。

東大紛争真っ盛りの頃に大学生活を送った私たちの世代はろくに講義も受けられなかった。建築家の仕事に惹(ひ)かれ、デザインの腕を磨くため街の油絵教室に通ったりしていた時、この本に遭遇。翻訳者の谷川正己氏の解説書『フランク・ロイド・ライト』と併せ読み大いに刺激を受けた。

ライトの作品は石やレンガ、コンクリートで造られたものが多いが、素材とは裏腹に得(え)も言われぬ温かみがあった。アートとアーキテクチャーの違いを問われたら答えは人がそれを使うか使わないかに尽きる。絵画や彫刻は飾るだけで良いが、建築物はそこに「住まう」人々の利便性や安全性を考慮し、精神を平安な状態に保つ使命を帯びる。例えば、博物館明治村(愛知県犬山市)に移設されている帝国ホテル旧本館。私の幼少時はまだ東京・日比谷に厳かな佇(たたず)まいを見せていた。親類の結婚披露宴などで訪れる機会があったが、限られた滞在時間でもそこに「住まう」人々の肌感覚に訴える心地よい空気が流れていたように思う。

私の大学での卒業論文テーマは「建築物の安全に関する研究(人に優しい建築)」。設計の世界への憧れは建築学科の同級生らの卓越したデザインを目にした途端に雲散霧消。ならば造る方へ進もうと建設会社への就職を選んだ。入社後現場でライトの技術の神髄に触れた思いをしたことがあった。

帝国ホテルに近い第一生命ビルの再開発事業「DNタワー21(第一・農中ビル)」の施工に携わった時のこと。地下を掘ると古い松杭(くい)がたくさん出てきた。柔らかい地盤上に建物を浮かせる状態にして支える「群杭」という耐震工法の形跡だ。これはライトが帝国ホテル建設時に使った工法と聞いた。ライトがこの設計を引き受けた際、仲間は「地震国の日本で建築を手がけるのは大変だぞ」と忠告したが、当人は意に介さなかったそうだ。完成直後に関東大震災に見舞われた帝国ホテル旧本館はほとんど損傷がなく、ライトの評価を一気に押し上げたのは皆さんご存じの通りである。

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