甘くてクリーミー 里芋使った大阪・熊取コロッケ
コロッケといえばジャガイモが定番だが、大阪府南部の熊取町では、特産の里芋を使った「熊取コロッケ(くまコロ)」を町のブランド品として売り出している。粘り気があり、どこか懐かしい味がする素材を生かそうと、各店が工夫をこらしている。
JR阪和線の熊取駅から車で約15分。野鳥のさえずりが聞こえる「cafe&zakka sora」では、近所の農家から仕入れる野菜を使ったランチが人気だ。
コロッケはとろりとして、ほんのり甘い。ゆでた里芋の潰し方が粗めなので本来の食感も楽しめる。炒めて味付けをしたひき肉がアクセント。オーナーの中谷かよさんによると「同じ熊取町でも農家によって里芋の粘りが違う」。ゆでた里芋をあんこでくるんだ「あんころいも」も町のブランド品に認定された。
串揚げと薫製の「TE kara TE」では、串揚げコースの一品としてコロッケが出てきた。オーナーシェフの高森政文さんは「熊取産の里芋はねっとり感が強い」と話す。ゆでた里芋を包丁でたたき、中にタラコとバター、表面にはカニ味噌とラディッシュとハーブ。春巻き状にして米油と少量のラードで揚げた。カリッとした春巻きの皮と、ねっとりとした里芋。対照的な食感を楽しめる。
丹念に調理された一品一品が店名の通り、シェフの手から客の手へ渡る。要予約。
洋食&フレンチレストランのプードルでは、理想のとろみを追求した結果、里芋とジャガ芋を3対1の割合で混ぜる。地場の玉ねぎとまいたけをソテーして入れ、揚げる。ケチャップを加えた自家製のデミグラスソースを添える。
里芋には早生と晩生があり、オーナーシェフの辻重光さんは「晩生の方がこくがあってクリーミー」と言う。今後は味に変化をつけるため、コロッケに新たな特産物を入れようかと考えている。泉州名産で小ぶりな「じゃこエビ」などが候補という。
熊取町商工会が専門業者に発注した冷凍コロッケを仕入れる店もある。うどん・そば、丼、定食のはなみずき亭もその一つ。揚げたコロッケにソースではなく「八丁味噌に白味噌を合わせた味噌ダレを添える」(店主の上田一さん)。揚げたてはビールに合う。締めのうどんに入れると汁を吸って別の味わいになる。
熊取町を含む泉州地域(大阪府南西部)で里芋栽培が急速に広がったのは大正時代だ。旧信達村(現泉南市)の松下喜治郎氏が1923年に栽培を始め、順調に生育したという。くまコロ誕生のきっかけは2012年、農業祭の開催に際して「町の特産物で何か料理を」という意見が出たことだった。
熊取町役場によると、同町産の里芋はきめが細かく、料亭でも使われる。また「植物繊維が豊富で、芋類の中では低カロリーなので体脂肪や生活習慣病が気になる方におすすめ」(産業振興課)という。
(堺支局長 塩田宏之)
[日本経済新聞夕刊2020年3月5日付]
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